第3話 告白

稽古を終え、帰路についている時のことだった。あのあとも稽古、いや、もはや手合わせというべきものを何度か繰り返し気付いたときにはもう夕暮れだった。


「まさかこの俺が、負け越すとはな……」


「仕方がないですよ、こちらはハンデをもらってたんですから」


父と手合わせの感想をお互いに述べていた。すると、前方からメイド服をした女性が慌てた様子でこちらに向かって走ってきた。


「当主様! 緊急事態です!」


とても焦った様子でガフートにそう告げた。


ガフートはとても落ち着いた状態で何があったのかと問い始めた。

どうやら、国の元首である人物がこちらに来訪しているとのことだ。


「急だな……」


「何かあったのではないですか?」


「だとしたら面倒なことになりそうな予感がするな。アルス、お前の頼み事はまた今度聞いてやるから大人しくしてるんだぞ? あと念のため障壁の外には出るなよ。」


障壁というのはガフートが張ったものであり、家を中心とした半径数十キロに及ぶ大規模な障壁を展開している。目的は主に不審者や魔物の侵入を感知し妨害することである。その障壁のなかには魔物にしか効果を発揮しないものなどもあり、非常に便利なものもある。


「お父様、よければ俺も同席してもよろしいですか?」


ダメ元でそう父に聞いてみた。この国の元首がどういう人物か気になるし、なによりわざわざ訪ねてきた理由を知りたい。


するとガフートは特に止めるわけでもなく


「いいぞ、だが大人しくしてるんだぞ?」


心良く快諾してくれた。


―――


元首を待たせている客間は1階にあり、ソファで長いテーブルを挟み込むようになっている。その片方のソファにはとても美しい黒髪をした女性が腰掛けていた。その後ろには若い男性と女性が一人ずつ立っていた。


「お待たせして申し訳ありません。」


「別に構わないですよ。ここのお茶おいしいですし。」


この女性こそが俺がいる国、アルテマ国の現元首

フェリ・アルテマだ。


「そちらのかたは?」


「気にしないでください、次男のアルスです。」


「アルス・クロニムルです。以後お見知り置きを」


「さてこんな辺境までわざわざ訪ねてくるような理由をお聞きしてもよろしいですか?」


「わかりました。あれを」


そう言い、お付きの女性からあるものを受け取った。ドームの形をした模型のように見えた。それを机に置き、魔力を込めると立体的な映像が宙に浮かび上がった。


そこに映っていたのはある大陸の魔物の様子だった。しかし、本来の魔物とは違い、何かがおかしかった。本来は顔が一つしかない魔物に二つあったり、温厚である性格の魔物が暴れまわっているなど普通ならあり得ない映像だった。


そもそも魔物というのは魔力を持った動物のことを指すのだが、人に害をもたらす魔物とそうでない魔物がいる。そして魔物のほとんどが特殊な外殻に覆われており普通の武器では傷付けるのは困難だと言われている。


「これは……共鳴ですか」


突然変異などではなく共鳴だと俺は思わずそう呟いた。


「ご存知なんですね。この現象を詳しく知っている者は少ないはずなんですが。」


「そうなんですよ! アルスは賢いんですよ! 生まれて立てるようになったらすぐに本に興味を示したりして、ともかく知識欲が素晴らしい子なんですよ!」


ガフートは自慢の息子を紹介するかのように興奮した様子でそう語った。


「そ、そうなんですね」


元首様は俺の方を見て笑みを溢した。


「話を戻しますと、この共鳴の原因を現在調べている途中なんですが行き詰まっていまして、ぜひお力添えをと思いここを訪ねました。」



クロニムル家はその異能の性質から障壁の設定は魔物の知識はあればあるほど細かい設定ができるので魔物に関する知識が必要だった。すると自然と知識が身につき、それは国の研究者と大差ないほどだった。


「そもそも共鳴というのは自分よりも強い存在の魔素の影響を受けて変化する現象のことを指します。」


摩素というのは魔力と似ているが少し違うもので、魔物と魔族にしかないといわれている。


「だとしたら、近くに何か強力な何かがあると思うんですが……。何か引っかかりませんでしたか?」


「私もそう思い、調べさせたのですが何もなかったんです。」


皆がうーんと頭を悩ませるところで俺はもしやと思い元首に尋ねた。


「この大陸の名前ってもしかしてファフ大陸って名前だったりします…?」


「なぜ、それを?」


少し怪しそうに元首は俺に尋ねた。すると父が


「実は次男のアルスは異能が変化して、失われた過去の知識や技術を引き出せる異能なんですよ。」


「そういうことでしたか。」


それならと元首はこちらを見て


「はい。貴方の仰る通りファフ大陸です。」


と告げた。そして俺は今まで疑問に思っていたことが確信に変わった。この世界は元いた世界とは別の世界かあるいは未来の世界なのか、結論を出せずにいたがようやくその答えを出すことができる。


「恐らくですが魔物が共鳴しているのにはその大陸に封印されている悪神竜が関係していると思います。」


この世界は元いた世界の未来の世界だ。だからこそはっきりそう告げることができた。すると父や元首だけではなくお付き者たちにも焦りを感じた。


「それって、神話の竜だよな? そんなものが実際しているのか……?」




「はい。悪神竜の復活が近いからこそ共鳴を起こしているのではと思います。」


悪神竜とは神話に伝わる竜であり、それは世界の悪とも呼ばれている。魔王と似たような性質があり、あらゆる大陸を死の大陸に変え生きるもの全てに遊び半分で死を与えるような存在だ。だがその竜は俺らとは違う別の勇者がなんとか封印したはずだ。


「何か対策でもありますか?」


元首は冷静な声でその言葉を俺にかけた。


「神話どおりの内容なら力でねじ伏せるしか方法はないと思います。」


「あとどれくらいで目覚めるのかわかりそうか?」


どれくらいかなんて具体的な時間はわからないがおおよそなら予想はつく


「もし異能が正常に機能しているなら私の予想ではあと9年で目覚めると思います。」


それを聞いた元首は勢いよく立ち上がり


「ご協力ありがとうございます。9年後に備えて準備をしたいので今すぐ首都の方へ戻りたいと思います。お茶美味しかったですわ。」


そう言い元首は家の外へと出て行った。


「何かあればまた来てください。もしかしたら次は戦場に呼び出されると思いますが」


と父と元首は握手を交わし帰還魔法を見送った。


「向こうからでは魔法が通じないがこちらからでは魔法が通じるって不便ですね。」


「仕方ないだろう、ここは一応魔物の生息地と近い場所にあるんだから。それにこんな便利なご時世だ、メールや電話で済むからわざわざ直接会って話すなんて想定してねぇよ。」


父は俺の頭に手をポンと置きそう語った。


そのあと家に戻り、晩ご飯を食べるときに元首と話した内容をジークやミレイユ、母にも話した。


「確かに。それが事実ならまずい状況かもしれないね。他の国とも情報を共有して力を借りるには時間がかかると思うしね。」


「それに」とミレイユが


「もしかしたら他の種族の力も必要かもね。そう考えたら9年って一瞬じゃない?」


「確かに大変な話だわ。けれども今夜は喜ぶべきことがあるんじゃない?」


その一言で周りの視線が俺に一気に集まった。


「俺の異能のことですね。」


「よかったじゃない! しかも聞いた限りではその異能めちゃくちゃ便利だし。」


ミレイユはそう嬉しそうに話した。するとガフートが


「そういや、俺に話があるんだよな? あとで俺の部屋にこい」とそう言葉を残して自室へ戻っていた。


―――


俺は晩ご飯を食べ終わり、風呂にも入って父の部屋を尋ねた。二度ほどノックし「失礼します」と言い扉を開けた。ガフートは扉を閉め切るのを待って


「さて話とはなんだ。」と俺にそう聞いた。


「前置きなしで言います。俺を軍に入れてください。」


「なぜだ?」とかガフートは当然の質問をしてくる。それにこれは人生に関わる選択だ。


だからこそ俺はここは本心をしっかりと伝えてなければならないと思った俺は正直に話すことにした。


「俺の異能は実は前世の記憶の引き継ぎなんです。ですがほとんどが抜け落ちており、前世の自分がなんだったのかいまいち理解できていないです。だからこそ自分を知るために外の世界に出たいんです。」


俺は嘘偽りなくそう話した。ガフートは俺を睨みつけるように話を聞いていたがその顔が一気に崩れ笑顔になった。最初何か起きたのではと思ったがそうではなかったようだ。


「その選択の理由を何か隠そうとするならば無理やりにでも吐かせるつもりだったが、正直に話してくれたことを俺は嬉しく思う。」


そして優しい親の目で俺を見つめた。


「たとえ記憶が戻ったとしてもお前は俺の息子だ。そこだけは忘れるな。お前には帰る家があるんだ、好きにやってこい!」


何かが頭をよぎった。燃え盛る家、腹を切られ倒れた男性、魔物に食い殺された女性、暗い、つらい、苦しい、助けて。


その言葉を聞いた俺の頬な一筋の涙が伝った。なぜだか俺にもわからないが、温かい何かで包まれたように感じた。


ガフートは「何も泣くことではないだろうに」と半分呆れた感じでもう半分は嬉しそうな声だった。


「そういうことか! お前俺に稽古を申し込んだのって実力を認めさせるためだったのか!」とさっき気づいたと言わんばかりにそう話す。


「え、全部わかってたんじゃないんですか?」


この男はほんとに食えないなと俺はそう感じた。


「このことは他のやつには極力話さない方がいいだろうな。お前の持つその知識は今のこの世界では古代遺物並の宝だ。」


父は俺にそう警告すると、一つのものを投げつけた。


「これは……」


鷹のようなデザインに星が3つある小さなバッジだ。


「それは俺が軍にいたときにもらったバッジだ。それを持って総帥のとこを尋ねろ。あと、お前の軍入りは9歳からだ。俺の知り合いに化け物みたいな爺さんがいる。そこで一旦戦闘技術を叩き直してもらえ。」


坦々と段取りを説明していく。悔しそうな目でこちらを見て


「俺にはお前の体術をお前に合うよう調整なんてことできないからな……」そう語った。


「あとあの氷の魔法あれは極力使うな。下手したらあれは戦略級魔法に届きかねない。わかったな?」


「わかりました」


俺はバッジを手にして父の部屋からでた。


「……」


「前世の記憶の引き継ぎか、アルスお前は勘違いしてるな。」


ガフートは腰掛けた椅子を回し窓に移った夜空を見上げながら呟いた


「あれはそんなチャチなもんじゃねぇ。もっと他のものだ。あの魔法を直接受けたからこそわかる。お前はまだ自分の力を理解していない。」


ガフートは幼くして旅立とうとしてる息子は思いそう考えていた

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