154話 出会い【3】
母アイラとはあまりにも違う対応。
オレの心はメロメロになりそうであった。
だが、幸せな時間はあっさりと奪われる。
あの赤毛だ。
二人の間に無理矢理入り込んできたのだった。
そこは自分の場所と言わんばかりに。
オレとしてもこんな気持ちのいい場所をあっさり奪われるなんてごめんである。
当然異物の侵入を阻止しようと押し返す。
押した方向がよかったのか、彼は床にコロンと転がって行った。
両親の顔が青ざめたような気がする。
無視して春の精の膝にチョコンと座る。
勝利宣言であった。
しかし、赤毛も負けてはいない。
無言で起きあがると突進してきて、オレを突き飛ばした。
そして今度は自分が床に転がるのだった。
メチャメチャ悔しい。
またしてもむかつくの一言である。
なので速攻で起きあがり、彼に向かって行った。
あとは二人して、レリア様の膝上の奪い合いである。
どうしてここまで必死になったのか分からない。
どちらが勝利したのかも全く覚えてはいない。
気が付けばジーグフェルドのベッドに、仲良く並んで寝かされていたのだった。
見慣れない場所にいることに驚き、心細くなり泣きそうになった時。
オレが動いた振動で側にいた彼が目を覚まして身動いだ。
自分以外の者がいたことに、悲鳴を上げそうなほど再度驚く。
だってこんなことは今まで一度もなかったから。
「う~ぬ~~~」
彼は何とも変な声を出しながら上半身をムクリと起こした。
しかし頭の方はまだ完全に起きてはいないらしい。
眠そうに目をゴシゴシとしている。
そしてゆっくりと顔を上げ、彼を見つめているオレと視線が合った。
自分と同じように驚くかと思ったら、ニパッと笑顔が向けられる。
彼があんまり嬉しそうに笑うので、つられてオレも何故か笑ってしまった。
そう、起きた時には先ほどの騒動など、双方共にすっかり忘れてしまっていたのである。
こうして俺たちの付き合いは始まったわけだ。
それからふたり揃って小悪魔と化すのに、さほどかからなかったような気がする。
祖父母の小言と両親の溜息は増える一方であった。
だが、オレたちはかなり楽しい時間を共有出来たと思う。
意志の疎通があり、尚かつ競い合う相手がいるというのは非常にありがたいことだ。
「え~と、どこにやったのかな?」
白日の【青の郭】執務室。
ジーグフェルドが机上の書類をガサガサとひっくり返して焦っている。
「ここだ! ジーク! そのままにしておいたら、書類の山に埋もれてしまうから、預かっておくと言ったじゃないか」
隣の席からイシスが頬杖を付き呆れ顔。
彼が必死に探していた書類をヒラヒラとさせた。
「お? そうだったかな?」
「まったく……。何かに集中しだしたら、本当に周囲の音が耳に入ってないんだな……」
『全くもって、昔からそうだよな……』
頭を大きく縦に振りオレは無言で頷いた。
身をもって経験しているから。
「う~ん。殺気なら感じ取れるのだがな……」
マヌケな彼の返答にイシスが大きな溜息を吐く。
「……。褒めるべきなのか貶すべきなのか、判断に悩むような返答をするなよ……」
「褒めて……欲しいん、だけど……」
ポツリと呟いたジーグフェルドの言葉に、イシスの眉間に縦皺が寄った。
怒鳴られる前にと、彼は慌てて彼女の手から書類を受け取り筒へと放り込む。
「じゃあ。頼むぞ! カレル」
眩しいほどの笑顔で書簡をオレへと手渡す。
そして送り出すために片手を上げる。
ジークが故ラナンキュラス陛下の息子だと知らされた時。
言葉を失う程驚いた。
驚いたのだが、妙に納得する面もあった。
いや、寧ろその方が、全てにおいて自然である。
しかし、だからといって。
オレは今までの付き合い方を変えるつもりはサラサラ無い。
それがとんでもなく不遜なことであってもだ。
父やアフレック伯爵達は苦い顔をしている。
だが、ジーグフェルド本人が全く気にしていない。
なので、そのままにしておこう。
「ああ! 任せておけ!」
笑顔で応えてオレも片手を上げる。
こんな短い会話で済むのは信頼の証。
そんなオレたちにイシスが優しく微笑んでいた。
ふたりの笑顔に見送られ、オレは平原へと馬を走らせるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます