153話 出会い【2】
彼はモクモクと積木を積む。
「あ、の……。ねえ!」
「…………」
ここまで徹底してやられると、不安を通り越して気分が悪くなる。
というかむかついてきた。
『オレが一体何をした⁉ それとも自分より身分が下の者と、口など聞きたくないというのか⁉』
って、感じだ。
完全にふて腐れてしまったオレ。
足下に転がっていた積木のひとつを取り、軽くジーグフェルドの方へと放った。
それはコロコロと走り、彼の足へと当たって止まる。
それでも赤毛は動かない。
なのでもうひとつ掴んで放った。
だが、それがとんでもないこととなる。
軽く投げたつもりだった。
しかしそこは所詮五歳児のすること。
力加減とコントロールが不安定である。
要するに、ヘタなのだ。
オレの手から勢いよく飛び出した積木。
ジーグフェルドが一生懸命積み上げたそれに、ものの見事にぶち当たった。
さらに素晴らしい音と共に全崩壊した。
ついでにその内のひとつが彼の頭に飛んでいき、コーンといい音を立てる。
ヤバイと顔を引きつらせるオレ。
無表情のまま目だけをパチパチさせる彼。
数秒間二人の周囲が凍り付いた。
どうしようかとオレは頭の中でグルグル考えを巡らせている。
すると、ジーグフェルドが床に散乱した積木を両手いっぱい抱きかかえるように拾って立ち上がった。
そしてこちらに近付いたかと思ったら。
あろうことかいきなり積木の雨を降らせやがった。
あまりの出来事に瞬間頭の中が真っ白になる。
その次は訳が分からず大声で泣き出していた。
「うわ~~~~~ん‼」
オレの声が部屋中に木霊する。
「きゃー! アーレス様! アーレス様‼」
誰かの声と、扉を慌てて開ける音がした。
しかし目の前に立っている赤毛は至って冷静であった。
泣きじゃくるオレを慰めるでもなく。
狼狽える訳でもなく。
あろうことかトドメのように頭の上へと、三角の積木を積んだのである。
更にそれが見事なバランスでもって頭から落ちなかったことに、えらくご満悦だった。
無表情なままパチパチと拍手をしやがった。
そこへアーレス様が飛び込んでくる。
室内の光景に一瞬絶句した。
だが、こちらもかなり冷静だったような気がする。
「ジーク、彼は人間だよ……」
アーレス様はガックリと肩を落として溜息を吐いた。
『それはオレのことを、積木パーツのひとつだとしか認識していないということですか?』
自分が哀れすぎて、心の中で悲鳴を上げる。
泣き声に悲壮感まで加わって、音量は最大へと一気に上がった。
アーレス様に続いて部屋へと飛んできた両親。
火が付いたように泣きじゃくるオレを見て、唖然としたのだった。
こんなオレを見るのは初めてだ。
恐らくこんなに泣いたのも初めてである。
二人してどうしたらいいのか分からず、どうやら固まってしまっているようだ。
入り口に突っ立って、さっきから全く立ち位置が変化していない。
そこへ新たな声がした。
「どうしたの? 凄い声ね」
やって来られたのは子供の目から見てもとても綺麗な女性だった。
「レリア!」
「レリア殿!」
彼女が部屋へと足を踏み入れた瞬間。
春が訪れたかのような空気が広がった。
心地よい空気に包まれたオレは、泣くことを忘れてしまったように静かになる。
こちらに近付いてくる春の精へと視線が釘付けになった。
先ほどサロンで挨拶をした時には見かけなかった顔だ。
「母上~!」
そんなオレの横からジーグフェルドが駆けて行く。
彼女のドレスの裾へと嬉しそうに抱きついた。
「ジークは彼に何をしたの?」
屈んで優しく訪ねる春の精に、彼は暴言を吐いた。
「さぁ……?」
『さぁ……? じゃないだろう!』
怒り最大で怒鳴りそうになったオレ。
だが、それよりも早く、彼女に説明を始めた女性がいた。
部屋の隅で一部始終を見ていた女中頭のマノールである。
そういえばアーレス様を速攻で呼びに行ったのも彼女だった。
主観を一切交えず。
起きた状況だけを見事に伝えていく。
どうやら自分の主の息子だからといって、ひいき目に見ることはしないらしい。
その姿勢に拍手を送りたい気持ちになる。
何故かって。
一方的に悪者にされずにすんだのだから。
「それはジークの方が、いけないみたいね。ごめんなさいね。怪我はしなかった?」
ポカンと彼女を見つめるオレの前に座る。
そっと頭に触れてれてきて傷の有無を確かめると、立ち上がらせて優しく抱きしめてくれた。
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