147話 真実の瞬間【12】

 イシスは浬の巣を訪れていた。

 王宮すぐ側の断崖に今朝より作り始めたものだ。

 まだ材料が不足しており完全ではないが、それでも浬の家である。


〈元気で。浬〉

「クワァ」


 浬が寂しそうに鳴いた。


〈私の世界に、お前は連れていけない。ここで生きてくれ。また会いにくる〉


 イシス。

 それは仮初めの名前。

 戦女神。 

 それは仮初めの姿。


「ここで私は、所詮仮初めの客でしかない。長居することはできない」


 浬の頭にそっと口づけ抱きしめた。

 断崖の中腹。

 月明かりに照らされたイシスと浬の影が浮かぶ。


 浬との別れを済ませたイシスは、ランフォード公爵城の食堂に瞬間移動した。

 そしてすでにできている「地球」への道を一気に駆け抜ける。





 司令官バインより知らせを受けたジーグフェルドは、挨拶を待つ貴族たちをおいて王宮を駆け出す。


「陛下?」

「何事ですかな?」

「さ、さぁ……?」

「追いましょう」


 ジーグフェルドはファンデール侯爵家の屋敷へと向かった。

 アーレスと対面した頃。

 プラスタンスやジオ。

 シュレーダー伯爵ラルヴァたちが到着する。

 アーレスから一部始終を聞き終えた一同は、カレルと合流して付近を探した。

 だが、見つけることは出来なかった。

 イシスは本当に忽然と城から姿を消してしまっていた。


「伝令を出して国境の検問を強化しましょう」

「彼女の馬はどうなっている?」

「とにかく。兵士たちを動員しましょう」


 みなの提案にジーグフェルドは首を横に振った。


『そんなことで捕まえられない』


 それは常に行動を共にしてきたジーグフェルドが一番よくわかっていたからだ。

 彼は何気なく夜空を見上げた。

 そこには無数の星々と共に大きな双子の月が青白く輝いている。

 折しも今宵は半年に一度の双満月の日であった。


 半年前のこの双満月の夜。

 目の前に忽然と現れ。

 数えきれないほどの奇跡を見せ。

 自分を勝利へと導いてくれたイシス。

 ここでの自分の役目は終わったと言わんばかりに消えてしまった。


 彼女は月が自分に与えてくれた贈り物だった気がする。

 ジーグフェルドは月を見上げたまま呟いた。


「きっと月へ帰ってしまったのだろう」


一同も空を見上げた。

 大きな双子の月を。


「また来ると告げたのなら、それまで待とう。信じるさ」

「陛下……」

「ジーク……」


 そしてジーグフェルドはもう一度月を見上げた。



第一部 双満月の奇蹟  完





【言い訳のページ】

ここまでお付き合いくださり、誠にありがとうございます。

楽しんで頂けましたでしょうか?


第二部まで、少々お時間いただきます。

その間は、ショートストーリーをお楽しみください。

また、イラストやパロディマンガをUPする予定です。

どうぞお楽しみに!


今後も引き続きどうぞ宜しくお願いします。

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