146話 真実の瞬間【11】

 神殿で居並ぶ貴族たちの見守る中。

 司祭よりジーグフェルドに再び王章が首にかけられた。

 国王の証である。

 王冠は、ジーグフェルドの希望でイシスよりその頭上に授けられた。

 白で統一されたドレス姿のイシスはとても綺麗だった。

 跪き、神妙な面持ちで王冠を受けたジーグフェルドは、そっとイシスに囁いた。


「とても綺麗だよ」

「ありがとう」


 頬を少し赤く染め、照れくさそうにイシスは笑った。


「ここまでこれたのも、そなたのお陰だ。ありがとう」

「ジークの人徳だよ。似合うぞ! その王冠」


 女神の祝福のキスが国王の頬に贈られる。

 式場からどよめきと歓喜の声が湧き起こった。

 国王は群衆の方に振り向き片手を高らかに上げ宣言する。


「これにより再び正当な王位継承者であることが証明された。国の繁栄のため諸侯らの健全なる統治を望む」


 場内を割れんばかりの拍手と喝采が包んだ。


 神殿で二度目の戴冠式が済んだ後、王宮では祝賀会が催される。

 お約束の行事とはいえ、数多くの来客の挨拶を受け国王はウンザリしていた。


(こんなことよりもオレはどうしてもイシスに伝えたいことがあるのだ!)


 昨日王宮を奪回してから今の今まで。

 次から次へと仕事や行事が現れて、イシスと会えたのも神殿でがやっとだった。

 おまけにこの祝賀会の席でいくら探しても姿が見えない。

 イライラが募るジーグフェルドだった。


 その頃イシスはファンデール侯爵アーレスの屋敷にいた。

 彼は歩けないため祝賀会を欠席して屋敷に残ったのだ。

 そこへ祝賀会に出席しているはずのイシスがヒョッコリと現れる。

 昼間かなりの時間をかけて支度してもらった女神の衣装。

 それを式典が終わると同時にさっさと脱いで、いつもの平服に着替えてしまっている。

 アーレスは驚きながらも笑顔で向かえた。


「おお。祝賀会にお出でと思っておりましたが、いかがなさいました?」

「私に敬語は必要ありませんよ。アーレス殿。お邪魔しても宜しいですか?」

「歓迎致しますよ。我らが戦女神。私が今こうしていられるのはあなたのお陰だ。このような老人相手で宜しければどうぞ」

「ありがとう」


 イシスは勧められたテーブルに付くと早々に用件に入った。


「これをお渡ししておこうと思ってお伺いした。お受け取り下さい」


 そう告げてあの黒い鞄を差しだした。


「これは……」

「分かりやすいよう瓶に番号を振り、その用途をこちらの用紙に書いております。用法と容量を守ってお使い下さい」

「イシス、殿……?」


 アーレスの手が小さく震えだす。

 イシスがこれから行う行動が彼には分かってしまったのだ。

(間違いなく。この屋敷をでたその足で彼女は、自分達の知らないところに行ってしまう)


「記憶が戻ったのかと聞いてしまったら、そのままどこかに行ってしまいそうで、怖くて聞けないのです」


 以前。

 ジーグフェルドの呟いた言葉が、今現実になろうとしたいた。


「お別れです。アーレス殿。私は自分の国に帰ります。お会いできて嬉しかった。ジークや他の皆さんにもそうお伝え下さい」


 そこまで告げるとイシスは椅子から立ち上がった。


「お、お待ち下さい! せめて陛下に直接挨拶だけでも」


 まな息子ジーグフェルドの気持ちを知っているだけに、どうしても会って欲しかった。

 きっと落ち着いたら告白するつもりに違いない。

 なのに肝心の相手がその前にいなくなってしまっては、叶わなくなってしなう。

 アーレスは必死で引き留めた。

 だが、イシスは首を横に振る。


「ジークの王冠姿は見れたし、満足している。急いで帰らなければならないのです。また来ます。お元気で」


 伯爵の頬にキスをすると、踵を返して部屋を出ていった。


「お待ち下さい! イシス殿‼ 誰かお引き留めしてくれ!」


 そこへ窮屈で退屈な祝賀会を抜け出してきたカレルと司令官バインが丁度現れた。


「どうされました?」


 アーレスはすがる思いでふたりに、たった今この部屋を出ていったイシスの引き留めを依頼する。

 だが、部屋に入ってきたふたりはイシスに会ってはいないのだった。

 時間的に考えるとイシスは廊下で消えてしまったことになる。

 彼女は瞬間移動をしたのだが、そんなこと彼等には分からない。

 司令官バインがジーグフェルドに知らせるため、抜け出してきたばかりの王宮に走る。

 イシスが空を飛ぶことを知っているカレルは、上を見上げながら付近を探した。

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