144話 真実の瞬間【9】
イシスはアーレスの側にいたファンデール侯爵家の者に、自分の黒いバッグを持ってくるようにお願いする。
少しして使いの者が戻ってくる。
「ありがとう」
受け取ったバッグの中から一冊の本を取り出した。
そしてテーブル上へと広げる。
その本に一同が驚き、ざわめきが起こった。
質の良い紙に着色までされている美しい本だったからだ。
しかも書かれている文字は全く見たことのないものだった。
「これは私の国、世界の本です。ですから書かれている文字が、皆さんには分からないでしょう。でも絵がありますので、解説して参ります。それでご理解頂けると思います」
イシスはその本の最初のページを開く。
そこには卵子と精子の写真があった。
彼女は子供向けの性教育の本を持ってきていたのである。
ランフォード公爵城で一度自分の世界へ戻った際だ。
元素が入った小ビン達と一緒に持ってきていたのである。
ジーグフェルドと共に一晩過ごしと時。
彼から言葉を学んだ。
そして彼が何にずっと悩んできたのか知った。
それ故、今回必要だと判断したのである。
彼女が自分の世界とこの世界の人間の身体の構造が同じであるかと判断できたのには、幾つかの理由があった。
ひとつ目は、シュレーダー伯爵家で最初にお風呂に入れて貰った際だ。
手伝いをしてくれた侍女が自分の身体について特に不思議がることなく、普通に接してくれた。
これはアフレック伯爵家やファンデール侯爵家でも同様であった。
ふたつ目は、マーレーン男爵家からジーグフェルド達の軍に合流するまでの間である。
ジュリアと二人で移動していた際。
汚れた身体を水の側でタオルを使用して奇麗にした。
女性同士なので気にすることなく裸になって洗った。
その時、イシスは何気にジュリアの身体を観察したのだった。
みっつ目は、ファンデール侯爵アーレスである。
汚れていた身体を洗ってあげた際。
当然裸にしたので全部見ている。
男性の裸は、幼いころに見た父親以外では初めてだった。
流石に顔を少し真っ赤にしてしまった。
そうやってこの世界の男性と女性の身体の作りが、自分の世界の人間と同じであることを確認した。
だから今回説明をすることが出来るのだ。
皆は、見たことのない美しい本に興味深々だった。
一体何が書かれているのだろうと。
そして、イシスの受胎から出産までの講義が始まるのであった。
一通りの説明が終わると、全員がポカンと口を開けている。
赤ちゃんがこのようにして授かる理由。
授かることが出来ない理由。
それを写真付きで知ることが出来たからである。
また、お腹の中で赤ちゃんがどのように成長していくのか。
性別を決める要因は男性であるというのも初めて知った。
「イシス殿の国では、このような事まで御存知なのですか?」
「そも、こんな美しい本……。どのようにして作られるのか?」
「こんな素晴らしい技術をお持ちとは、一体どちらの国なのですか?」
皆の問いかけにイシスは切ない表情をした。
「それにつきましては、いずれまたの機会に。今はまだ大切な説明の途中ですから」
実際。
この本が印刷されたのは、文化や文明が絶頂期を迎えていたもう随分前の事である。
陽の国にある図書館から奇麗なものを借りてきたのだ。
そしてお腹の中の赤ちゃんの成長。
これは第二次世界大戦中。
恐ろしい人体実験の結果、一般に知られることになったのだ。
「それで、双子にも一卵性と二卵性があります」
「一卵性?」
「二卵性?」
彼らは初めて聞く言葉であった。
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