143話 真実の瞬間【8】


 誕生の際。

 唯一違っている点といえば。

 かのフランス国王ルイ十四世は一卵性双生児。

 入れ替わっても周囲には気付かれない程そっくりであった。


 それに対し、こちらは二卵性双生児。

 双子でありながら、お互いが似ていない。

 だから余計にややこしくなったのだろう。

 しかも髪の色まで違う。

 この火薬すらまだない世界の住人達が疑うには十分すぎる要因である。


(それでもジークの方が父親に似ていたのが幸いだったな。説得させやすい)

「それで……。スカレーナ陛下とラナンキュラス殿下は、緑の郭に御滞在中でしたファンデール侯爵をお呼びになり、ジーグフェルド王子様を託されたのでございます」

「その事は、ラナンキュラス陛下から賜りました箱の中に同封されておりました。私の父からの手紙にも認められております。ですからオクラータ様ご崩御の際。ファンデール侯爵のお言葉と共に、二つの箱を開封致しました」


 付け加えたのは宰相アナガリス=モーネリーであった。


「そうですか」


イシスはこれまでの経緯を確認しながら、独り言のように短く返答をした。


「まあ……。だいたいこんなものなのだが、どうだ? 理解できたか?」


 ジーグフェルドが心配そうにイシスの顔を覗き込む。


「ああ。大丈夫だ。把握した」

「そうなのか?」


 まだ不安そうなジーグフェルドにイシスは笑顔を向けた。


「心配するな。ちゃんと皆が。そしてジークが納得できるよう務めるよ」

「ああ……」


 不安気なのはジーグフェルドだけではない。

 この部屋にいる者全員がそうなのであった。


「ありがとう。もうこれはお返し致します」


 イシスは手紙の入った箱を宰相モーネリーに返した。

 そして、唐突に切り出す。


「お話しする前に。皆さんはどうやって赤ちゃんが産まれるのか御存知ですか?」

「えっ⁉」


 イシスが一体何を言い出すのだという感じで、皆が凍りついた。

 そんな中。

 一番最初に言葉を発したのは、彼女と一番付き合いの長いジーグフェルドであった。


「え、っと……。イシス? それが何か関係があるのかな?」

「ああ。あるよ。この時代の方々がどれ位の知識があるのか、まず確かめておきたいからな。何方か説明できますか?」


 顔を赤くし俯き沈黙する周囲をイシスはグルリと見渡す。

 幸か不幸か。

 彼女と視線があってしまったのは宰相モーネリーであった。

 イシスが顔を少し振って説明を促す。


「えっ⁉ 私が、で、御座いますか?」

「ああ! そうだ!」


 狼狽える宰相モーネリーにイシスは平然と言い放つ。

 口調がジーグフェルドにそっくりな為。

 彼に言われているような感じに陥り、拒否することが出来ない雰囲気になる。

 しかし、相手は十五歳位の少女に見える。

 どこまでどう説明していいのか動揺する宰相モーネリーであった。


「断っておくが。男性と女性が肌を合わせたら赤ちゃんを授かるなんて、子供のような説明はしないで下さいよ」

「…………」


 イシスの言葉に宰相モーネリーがギクリとしたような表情をする。

 どうやらそう言うつもりだったようだ。


「はぁぁ……」


 イシスは溜息を洩らした。

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