142話 真実の瞬間【7】

「ジークとエルリック国王の出産に立ち会った方は、御存命かな?」

「はい。当時は王妃付き侍女で、現在の女官長がおります。お呼び致しますか?」

「はい。お願いします」


 暫くして部屋へと入ってきたのは、四十代半ばで白髪がやや多めのご婦人であった。

 名前はコーヌ=コピア。

 王宮内女官の中で最高位に位置する女性である。


「申し訳ありませんが、当時の事をまたお聞かせ願えますでしょうか?」


 アナガリス=モーネリー宰相が女官長へと促す。


「はい。承知致しました」


 そしてコーヌ=コピアがエバンジェリン皇太子妃出産時の事をゆっくりと語り始める。


「もう……。何度も申し上げますが。私のお伝えいたします事は変わらず、そして真実で御座います。当時女官長であった母の側で、私はエバンジェリン皇太子妃様の出産に立会ました」


 彼女が語り始める。

 すると、イシスの中でビジョンがゆっくり、その当時へとプレイバックして行った。


「予定されておりました日より随分とお早い陣痛の中。エルリック王子様がお誕生されました。ご無事のご出産に、皆が安堵と喜びに沸いておりました。ですが、ご出産されたにも関わらず、エバンジェリン皇太子妃のお腹は結構大きなものでした。ですから医師も不思議がっておいででした。そして、エルリック王子様が誕生なされてから約二十時間位が過ぎた頃です。すっかり落ち着かれていたエバンジェリン皇太子妃様が、突然お腹を押さえて苦しみだされたのです。お側におりました者達が、下がっておられた医師とラナンキュラス殿下を呼びに部屋を飛び出しました。残った私が必死に皇太子妃様のお名前をお呼びしました。丁度お二方がお部屋に到着されると同時に、ジーグフェルド王子様がお誕生になられたのです」


 部屋にいた一同は一言も発することなく静まり返っていた。

 前回も同じことを彼女から聞いた。

 ここまでならば双子の場合、稀に起こる事ゆえ納得できる。

 だが問題なのはこの先からであった。

 この国では同時に誕生した子供が複数の場合。

 つまり双子は後から生まれた子供を第一子とすると決めてあるのだ。

 従って、彼女の証言が真に正しいのであれば、ここにいるジーグフェルドこそが第一王位継承者だったということになる。


「ジーグフェルド王子様をご覧になられて、ラナンキュラス殿下は大層驚いてありました。それと同時に嬉しそうにもしてありました。ですがここでラナンキュラス殿下とスカレーナ陛下は、苦しい決断をなさったのです。もうお世継ぎ誕生の祝賀会は終わっておりました。各地へのお使者達も出立した後でしたから……。今更本当の第一子が御誕生とは公表し辛かったのです。しかも……」


 ここで女官長はジーグフェルドの方へと、申し訳なさそうに視線を向けた。


「その……。双子になられると申しますのに、エルリック王子様の髪の色は黒。なのにジーグフェルド王子様は赤でしたので、尚更でした……。ですが! 真実ジーグフェルド様はエバンジェリン王太子妃様がご出産された王子様で御座います!」

≪太陽王と言われた、フランスのルイ十四世と同じだったのか……≫


 イシスは、自分の世界でのフランス国十六世紀頃のルイ王朝での史実を思い出していた。

 史実とは言われていても、実際のところ本当なのか否かは当時現場にいた者達にしか分からない。

 だが、伝書や映画等ではそのように取り上げられている。

 かの王朝においても、かなりの時間差を経て誕生した双生児の王子を巡って、後に争いが起こっている。

 今回のこの事件はそれに酷似していた。

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