141話 真実の瞬間【6】

「イシス?」

「まだだ」


 彼女は出来るだけ丁寧に言葉を選んで言った。


「ジーグフェルド本人と、皆様が疑問に思われている事。私が出来る範囲内で検証して御説明申し上げましょう。私は自分の知識の中から、それが可能だと判断致します」

「オレが思っていることを説明できると?」

「ああ」


 ジーグフェルドが驚きの表情でイシスの顔を見下ろす。

 そんな彼の顔を見上げ、彼女は涼しい表情で答えるのだった。

 イシスは彼がずっと王家の血筋なのかと自信が持てないことを知っていた。

 ここで完全に取り払ってあげたいと思っているのだった。


「可能なのですか?」

「出来なければ申しませんよ」


 プラスタンスが不安そうにイシスへと尋ねてきた。

 それにも彼女は笑顔で答えを返すのだった。

 周囲にいる誰もが皆、不思議そうに互いに顔を見合わせる。

 それ程。

 この問題は皆の心に重く抱えていたものだったのだ。


「その為に、もう少し情報を貰えるか?」

「ああ。それは全く構わないよ。何が必要なのか教えてくれ。全て用意するから」

「そうだね……。先ずは一通り整理しようか?」

「分かった」

「アーレス殿が保管していたという、ジークに関する出自の手紙は、本物だと確認済みなのだよね?」

「はい。筆跡、国璽、署名。どれもラナンキュラス国王陛下御本人のものと、断定されております」


 イシスの質問に宰相アナガリス=モーネリーが即座に返答する。


「それだけでは御座いません。我がモーネリー家にも、同じお手紙が保管されておりました。亡くなりました父がラナンキュラス国王陛下よりお預かりし、その後私が管理しておりました」

「それをお父上から相続した際、ご覧になられましたか?」

「いいえ。王家の相続に危機が訪れた際にしか開封することを許さないと厳命されておりましたので」

「管理に不備は?」

「天地天命にかけて御座いません」

「どちらも拝見させて頂いて宜しいですか?」

「それは……」

「構わない。俺が許可する」

「承知致しました。お持ち致します」


 宰相アナガリス=モーネリーは手紙が保管されている宰相室へ行く。

 そして二つの美しい箱を持って戻ってきた。


「どうぞ」


 二つの箱を部屋の中央付近にあるテーブルに置き、イシスに向かって右手を差し出す。


「ありがとう」


 短くお礼を言って彼女は二つの箱から手紙を出す。

 それをテーブルの上に揃えて置いた。

 どちらの手紙にも全く同じ内容が認められている。

 先程宰相モーネリーが伝えた通り、筆跡も国璽も署名も同一人物が書いたものと判断できる。


「十二代目国王ラナンキュラスが残した手紙は二通とも問題なしで、皆は納得出来ているのだね?」

「はい。そうですね」

「では、次の問題は? ジークが一番問題視しているのは何だ?」

「自分が産まれた状況と経緯。そしてエルリック国王と双子だと言われているのに、彼は黒髪。自分は赤い髪……。容姿も違う……。これで納得しろと言われても無理な話だ。前回の王位継承の際にも、一番問題になった事柄だ」

「ん……。分かった。では、そこから解決して行こう。まずは容姿を確認したい。歴代国王の肖像画はありますか?」

「はい。御座います。肖像画の間が御座いますので、そちらへご案内致します。御同行願えますか?」

「承知した」


 肖像画の間でイシスは絵を眺める。

 スカレーナ、ラナンキュラス、エルリック、オクラータ。

 みな一様に髪が黒い。

 さらに配偶者の肖像画もじっくりと眺めた。

 そこでイシスはひとつのことに気が付く。


「なるほど……」


 小さく呟いた。

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