140話 真実の瞬間【5】

 遅い夕食を食べ終えた一同は、そのまま食堂で話を進める。

 宰相モーネリーが短剣をテーブルの上に置いた。

 ジーグフェルドがカレルに託し、彼の手に渡った品物である。

 もとは難攻不落といわれたバーリントン伯爵城で手に入れたものだ。

 出されたお茶を一口飲んだジーグフェルドが尋ねる。


「説明してくれ」

「畏まりました」

「結論から申しますと。以前この国にいた貴族の、侯爵家の紋章でした」

「‼」

「侯爵家?」

「さようです」


 今現在。

 メレアグリス国に侯爵家はふたつしかない。

 過去にはみっつあったということになる。


「スカレーナ陛下が誕生される4代前です。東のダッフォディル国との国境近くに存在しておりました侯爵家ラベンデュラです」

「どういう経緯いきさつで滅んだのだ?」

「はい。記録によりますと、謀反の罪です」

「謀反……」


 食堂内がシンと静まり返る。

 ほんの少し前にその謀反が終結したばかりだからだ。


「それで?」

「王家にある記録は謀反でしたが。モーネリー家にある記録はかなり違っておりました」

「両家の記録がちがう?」

「さようです。ですから手古摺りました」

「モーネリー家の記録には、なんと書かれていたのだ?」


 宰相モーネリーは一呼吸おいた。


「まず。王家の方を先に」

「分かった」

「王家の記録には。当時の長男が王家に対し謀反を企て、国王軍によって城が攻撃されました。このことで城と領地は没収。一族はことごとく処刑され、侯爵家は断絶いたしました」

「……」

「次にモーネリー家の記録です。当時の国王が愛妾にと望んでいた国内の伯爵家の令嬢がおりました。しかしラベンデュラ侯爵家の長男と既に婚約しておりました」

「!」

「そのことが原因で国王が城を攻めたとあります」


 ジーグフェルドの手が小さく震えた。


「国王が謀反の罪をきせて失脚させたと?」

「正確なことは分かりかねますが、その可能性が非常に高いと記されております」

「先はどうなったのだ?」

「伯爵家の姫は、国王の愛称となり花の郭に入りました」

「気の毒に」

「しかしまだ先がございます。ラベンデュラ侯爵家には次男と三男がおりました。このふたりが密かに難を逃れてダッフォディル国へ逃れたようです」

「なんと」


 一同が驚く。


「そして現在。ダッフォディル国にふたりいると言われている参謀のうちのひとりの名がラベンデュラと申します」

「‼」

「なんだと⁉」


 更なる衝撃が一同に走る。


「その名を堂々と名乗っているということは……」

「おそらく先祖の復讐を兼ねて、今回の簒奪劇を考案したのではないかと推察されます」

「…………」


 ジーグフェルドは深い溜息を吐いた。


「ニグリータもランフォードも手駒として扱ったのだと?」

「証拠は何も御座いませんが、おそらく」

「あるのはダッフォディルの国王からの手紙と紋章入りの剣だけ……か」

「紋章入りの剣を使用したということはそう言うことかと」


「恐ろしい執念だな」

「一族に代々消えぬ恨みを伝えていったのでしょうね」


 クロフォード公爵が呟く。

 イズニックが続いた。


「権力とは恐ろしいものだな」

「使い方によるよ」


 ジーグフェルドの言葉にイシスが答える。


「そうだな。気をつけないとな」

「そうだね」


「陛下。ダッフォディルへの連絡は如何いたしましょう?」

「ニグリータのことだな?」

「さようです」

「病にかかって呆気なく旅立ったとでも伝えておけ。侍女たちも同様だと。公式発表もだ。そうしなければダッフォディルとの戦になろう」

「畏まりました」


「宜しいのですかな? 仕掛けるには十分な材料だと存じますが?」

「国王からの手紙もございますし」


 ジーグフェルドと宰相モーネリーの会話に、クロフォード公爵とイズニックが尋ねる。


「いや。国内を立て直すのが先決だ。それにこちらから仕掛けるつもりはない」

「そうですか」


 あくまでも国内のことを重要視する彼にクロフォード公爵は微笑んだ。

 安心したようでもある。


「これでやっと終了だな」


 ジーグフェルドはそういって笑顔をみせた。


「いや。まだだ」


 声を発したのはイシスだった。

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