139話 真実の瞬間【4】
「ペレニアルはどうしているのだ?」
「サルディスが王座に座っていたそうだが」
クロフォード公爵とジーグフェルドが宰相モーネリーに尋ねる。
「ランフォード公爵は重体でございます」
「‼」
「重体?」
「一体どういうことだ?」
「ご覧になられた方が宜しいかと。ご案内いたします」
宰相モーネリーがジーグフェルドたちを案内する。
連れていかれたのは侍従用の小部屋だった。
事態を把握できずに全員首を傾げる。
部屋の中へ入ったジーグフェルドたちは衝撃を受けた。
「これは……。一体?」
ランフォード公爵は簡素なベッドに横たわっていた。
目は虚ろで、口からよだれを垂らしている。
下の状態もよくないのか、部屋中が糞尿臭い。
「おそらく毒を盛られたようです」
「‼」
「サルディスとニグリータか……」
「おそらく」
「そのニグリータの後ろにはダッフォディル国の国王がいるのだろうな。ドーチェスター城の深部を弱らせて、攻め入るつもりだった……か」
宰相モーネリーとジーグフェルドの話の中にクロフォード公爵が割って入る。
「この経過を教えてくれぬか?」
彼の表情は暗い。
憐れんでいるような顔であった。
「畏まりました」
宰相モーネリーは少し時間を巻き戻す。
王妃が使う寝室でニグリータが寛いでいる。
ジーグフェルドが城を追われて直ぐにここへ戻ったのだった。
「ねえ、ネーリ」
「はい?」
「ここまではお父様の言う通りにしてきて。実際そうなったわよね」
「そうでございますね」
「わたくし頑張ったわよね?」
「勿論ですとも」
しかしニグリータの表情は芳しくない。
「なのに、いまだにジーグフェルドは生きているし。ペレニアルは負け続けているし……。はぁ……」
「ご心痛お察しいたします」
「お父様はこのままペレニアルの側にいるようにとのご指示だけど。わたくし好きじゃないのよね。あの狸」
「ですが、陛下のご命令では致し方ないかと……」
その時。
ニグリータの表情が少し明るくなる。
「考えたのよ。ランフォードの側であればいいのでしょう? ならば息子の方でもいいのではなくて? ねぇ、ネーリ?」
「は? いえ、あのそれは……」
「そうしましょう」
「どうされるのですか? ランフォード公爵が大人しく引き下がるとは考えられませんが」
「そんな相談するわけないじゃないの」
「では?」
「これよ」
ニグリータは鏡台の引き出しから小さな小瓶を手に持った。
「姫様! それは!」
「強制的に退いてもらうのよ」
「そんなことなりません!」
「いいじゃない。あの男は何にもしていないわ。私のおかげで王の座に就いたのですもの。役に立たないのなら必要ないじゃないの」
「姫様……」
「息子と差し替えたって大丈夫よ」
そしてニグリータはペレニアル=ロウ=ザ=ランフォード公爵の夕食に毒を盛った。
倒れた彼を医師が必死に看病する。
一命はとりとめた。
しかし、廃人同然の状態となってしまう。
そんな彼を侍従用の小部屋に移動させる。
ニグリータはサルディスとニグリータをよび、玉座へと座らせるのだった。
一方のサルディスはヒステリックな父親がいなくなったことを喜んだ。
更にすべての実権を自分の物にできるのだから否はない。
そうしてふたりは王宮で遊びにふけったのだった。
その結果。
わずかひと月余りでドーチェスター城内部は荒れたのである。
話を聞き終わったジーグフェルドたちは大きく深い溜息を吐いた。
「いずれにせよ。このまま放置はできまい。首謀者である以上責任はとってもらう」
「如何いたしましょう?」
「苦しまないようにしてやれ。国民に知らせて、サルディスとともに遺体は場外へ晒せ」
「畏まりました」
毒を飲ませ、死亡したランフォード公爵を青の兵士たちが運んでいく。
ジーグフェルドを苦しめた人物たちの末路である。
神妙な面持ちでその最後を見送った。
「モーネリー宰相。次は、カレルが渡した剣の紋章は分かったか?」
「はい。苦労いたしましたが。なんとか」
「そうか。聞こう」
「待て。ジーク」
「イシス?」
待ったを入れたのはイシスだった。
「先に食事にして、少し休んでから始めよう。皆も兵士たちも疲れたし、お腹が空いているだろう? 休憩は必要だ。効率が悪くなる」
「しかし……」
「もう逃げる者はいないだろう? 落ち着けよ」
「……そうだな。そなたの言う通りだな。休憩しましょう」
「畏まりました。お食事の準備を致します。皆さま食堂へどうぞ」
そうして遅い食事へと向かった。
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