138話 真実の瞬間【3】

 ニグリータの唇がワナワナと震えだす。

 侍女達も同様に震えだした。


「わ、私を……。ダッフォディル国の皇女で、この国の皇后であった私を殺すと言うのですか⁉ 父が黙ってはおりませんよ!」

「ダッフォディル国への言い訳など何とでもなる。死に逝く者が気にする必要はない!」

「‼」


 ジーグフェルドの言葉にニグリータは床へと座り込んだ。

 立っていることも出来なくなったのであろう。


「ランフォード公爵と共に、此度の内乱を引き起こした責任。アーレス=トウ=ラ=ファンデール侯爵への非道な仕打ち。並びにレリア=トウ=テ=ファンデール侯爵夫人殺害への共謀。万死に値する。この国に貴女の居場所はない!」


 聞こえているのかいないのか、ニグリータの目は虚ろであった。


「一つだけ安心するがよい。この国の名誉の為。貴殿の遺体はエルリック国王の妻。そしてオクラータの母として埋葬する」


 ジーグフェルドの沙汰が終わる。

 絶妙のタイミングで宰相アナガリス=モーネリーが、トレイにグラスを四つ乗せて部屋へと入ってきた。

 グラスの中には少量の赤いワインが注がれている。

 ワインの中には毒が入っているのであろう。

 それを見た瞬間。

 サルディスが震えた声で叫びだす。


「わ、私は何もしていないぞ! すべては父上とニグリータ殿が」

「黙れ! 愚か者!」

「ひっ!」

「この王宮を。ドーチェスター城内全てを乱した罪。償ってもらうぞ!」


 サルディスの両腕を青の兵士たちが押さえ口を開けさせる。


「嫌だ! 嫌だ‼ 離せ無礼者ぉ‼」


 彼は必死で抵抗するが動けない。

 その口へ宰相モーネリーがワインを注いだ。

 飲み込んだサルディスは首を両手で押さえ床に倒れ込む。


「い、やだ……」


 少し藻がいた後絶命する。

 それを見たニグリータは表情を一変させた。


「い、いや……! 私は死にたくない……」


 先ほどの強気からは一変している。

 彼女は涙を流してジーグフェルドを見上げた。

 そして床を這うようにしてジーグフェルドの足元へと擦り寄ってくる。


「悪かったわ。謝ります。だからお願い……殺さないで……」


 だが、ニグリータの必死な願いも今のジーグフェルドには届かない。

 彼は冷ややかな視線を彼女におくる。


「ファンデール侯爵夫人と、此度のくだらない内乱の為に死んでいった者達全てに、あの世でお詫び申し上げるがよい」


 ジーグフェルドは右手を軽く振った。

 ニグリータを含めダッフォディルから着いてきた三名の侍女達の横に青の兵士たちが立つ。

 一人目の兵士が彼女達の両手を後ろに組ませる。

 そして二人目が顎を持ち上げ、上へと向かせ口を開かせる。

 さらに三人目の兵士が毒の入ったワインを、容赦なく一気に口の中へと注いだ。

 皆、飲み込むまいと抵抗するが口と鼻を塞がれてはお仕舞であった。

 侍女達の方からひとり。

 またひとりと倒れ伏して行った。


「ジ、ーグ……」


 ニグリータが最後まで抵抗した。

 だが、そこまで口にすると口から血を流し床に倒れて絶命する。

 ジーグフェルドは終始無言で一部始終を眺めて、上から冷ややかな視線をおくるだけであった。

 そして、小さな溜息を1つ吐く。


「次はペレニアルだな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る