134話 勝利の予感【10】

 第四の青の郭の門は固く閉ざされていた。

 城壁の高さは今までとは比べ物にならないくらいある。

 アフレック伯爵家の弓矢部隊でも叶わない。

 第二の黄の郭で使ったのと同じ作戦は無理であった。

 打つ手がない。


「くっ! ここまできて……」

「陛下。焦りは禁物です」

「分かっている。だが……」

「攻める手がないな……」

「ここばかりは中から門を開けてもらうしかないからな」

「流石。ドーチェスター城青の郭……」


 首脳陣が苦慮する中。

 希望を灯す声が上がる。

 イシスであった。


「ジーク! 今からどうしたい?」

「イシス?」

「このまま一気に攻めるか? 一旦ここで休憩をとり、明日の朝から再び攻めるか?」


 空は夕闇に包まれようとしている。

 朝からドーチェスター城目指して行軍してきた。

 到着してからはこの第四の青の郭まで一気に攻めている。

 みな疲れているだろう。

 お腹も空いているはずだ。

 しかし、ジーグフェルドの気持ちは決まっている。


「叶うなら。このまま一気に攻め落としたい。対応を考える時間も、逃げる時間も与えたくない」

「ん。分かった。何とかしよう」

「えっ⁉ なんとかって……?」

「考えがある。この時間帯を有効に使いたい」


 ジーグフェルドはイシスの目を真っすぐに見つめる。

 この何ともならない状況を打破できるなら賭けるしかない。


「分かった。任せる。どうか頼む」

「うん。シーツを一枚貰っていくね」

「ああ。構わないよ」

「そして、浬?」


 馬の翼の背に乗っている浬と何やら打合せをイシスは行う。

 その後翼に乗って城壁の端へ向かって行った。

 太陽が凄い勢いで沈んでいく。


「一体どうするのでしょうか?」

「分かりませんが……。楽しみですね」

「ふっ! まったくですね」


 プラスタンスとジーグフェルドは笑った。


「戦闘の準備だけは怠らないように」

「畏まりました」

「ありがたいことに水を飲む時間くらいはありそうだ」

「お持ち致しましょう」

「皆も飲んでおくように」

「急いで配らせましょう」

「お願いする」


 受け取った水を飲みながら改めて城壁を見上げる。

 そして改めて思う。


『こんな強固な場所からオレは簡単に追われてしまったのだな。情けない……』


 直後であった。

 城門横にある二つの塔。

 その内のひとつのてっぺんに白い影が現れた。

 暗闇迫る中。

 実に神秘的な光景となった。


『いったいどうするのだろうか?』


 ジーグフェルドたちは息をのんでこの光景を見守った。

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