132話 勝利の予感【8】

 第三番目の城門は公爵と侯爵家の屋敷がある緑の郭。

 国賓の滞在場所の赤の郭である。

 入口はひとつで、向かって右が赤の郭。

 左が緑の郭となっている。

 ジーグフェルドたちが到着すると門が開けられ剣や槍を構えた兵士たちがゾロゾロと出てきた。


『抵抗するか……』


「応戦用意! たたき伏せて突破するぞ!」


「おお‼」


 威勢の良い声と共に激しい戦闘が始まった。

 狭い場所でも戦いは非常に困難である。

 戦況は五分五分の膠着状態であった。


「放て!」


 そこへプラスタンスの声が響く。

 アフレック伯爵家の弓矢部隊が城壁の向こうへと矢を放ったのだ。

 少しでも多くの敵をたたこうとした作戦である。

 高度な技術を持つ彼らだから出来ることであった。

 これにより敵に動揺が広がる。

 ジーグフェルドはその隙を見逃さなかった。


「一気にたたみかけろ!」


 戦況が五分の場合。

 勝利の分かれ目はほんの些細な事であろう。

 今回のような機転の利く部下の存在。

 もしくは指揮官の力量。

 これに少しでも優れている方が勝つ。


 国王軍はついに城門を突破した。

 緑と赤の郭へと兵士たちがなだれ込む。

 ジーグフェルドは後方で指揮をしていた。

 そこへレオニス=メルキュールが共の者たちとやってくる。


「陛下。お願いがございます」


「なんだ?」


「ランフォード公爵家の屋敷へファシリア様を探しに行かせてください」


「王宮におられるのではないか?」


「分かりませんが。念のため行かせてください」


『?』


 ジーグフェルドはレオニスの言葉に何かを感じた。


「分かった。行くがよい。ファシリア殿を探して、御身の安全を確保してくれ」


「承知いたしました」


「一応、ファンデール侯爵家の兵士を十名連れて行け」


「ご配慮痛み入ります」


 ランフォード公爵の兵はすっかり意気消沈してしまってはいる。

 逃げ場はないため投稿してくる者たちが続出する。

 しかし、中には最後の抵抗で襲い掛かってくる者もいた。

 レオニスたちは倒しながらランフォード公爵家の屋敷へと急ぐ。


 やっとたどり着いた屋敷。

 そこは依然と何も変わっていらなった。 

 だが、人の気配がない。

 レオニスは玄関の扉を慎重に開け内部へと入る。


 出迎える者も逃げる者もいなかった。

 ただただ暗く静かなのである。


「ここにはいらっしゃらないのか?」


 ジーグフェルドの元へたどり着いてから今日まで。

 一切連絡を取ることができなかった。

 そのことがレオニスを余計不安にさせている。

 心配で心配で仕方がなかった


「姉上! 姉上! 誰かいないか⁉」


 彼は声をはりあげ屋敷の内部へと進んでいく。

 

『どうかご無事でいて下さい』

 

 ファシリアの供をして何度も訪れているランフォード公爵邸。

 廊下の至る所に華美な装飾品が置かれている。

 全ては派手好きなペレニアル=ロウ=ザ=ランフォード公爵の趣味でだ。

 そんな中をファシリアの部屋へと一直線に走って行った。

 ノックもなしに扉を勢いよく開ける。


「姉上!」


 しかし、そこに願う姿はなかった。


『・・姉上・・。一体どちらに・・?』


「レオニス様?」


 そこへ頼りなげな声がかかる。


「!」


 レオニスが振り向くとファシリア付きの女官が一人廊下に立っていた。

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