129話 勝利の予感【5】

 ジーグフェルドたちはドーチェスター城が見える小高い丘まで到着する。

 近くまで来たら小さな小競り合いでも起こるかと思っていた。

 だが、そんな気配は全くない。


「どういうことだろう?」


「城の周辺に全く兵士がおりませんな」


「ランフォード公爵の兵士たちは全員城壁の中ということでしょうか?」


「まだ奴に加担している貴族たちの兵士もいるはず……」


「それが全く見えないとは?」


 ジーグフェルドの周囲で主要人物たちがいぶかしむ。


「浬に見て来てもらおう」


「ああ。頼む」


 イシスは上空を飛んでいる浬をよび、異国の言葉でお願いをする。

 浬はドーチェスター城へ向けて勢いよく飛んで行った。

 まことに便利な諜報員である。


「取り敢えずこの場で待とう」


「かしこまりました」


 兵士たちに伝令が行き、暫しの休息時間が設けられる。

 ジーグフェルドたちは作戦会議の形を作ってお茶を貰う。

 寛いでいるところへ浬が戻ってきた。

 イシスと何やら話したのち、再び空へと舞い上がる。


「ジーク!」


「おお。どうだって?」


「それが……」


「?」


「多分。第一の、白の郭? が大変なことになってるようだ」


「大変な事とは?」


「浬いわく。人が大勢争っているということだ」


「どういうことだ?」


「う~ん。なにぶん浬の語学力だからな……。これ以上は分からない。行って見てこようと思うけど」


「それはいかん! いくらそなたでも危険だ」


 ジーグフェルドは慌てて椅子から立ち上がる。


「なら、どうする?」


「そうだな……」


 そこへプラスタンスが会話に割って入ってきた。


「ならばこのまま進軍しましょう。その方が早かろう」


「そうです。もう目的地はそこなのです。敵が攻めてこないのであればこちらが参りましょう」


 ジオが続く。

 シュレーダー伯爵ラルヴァたちも頷いた。


「分かった。明るいうちに攻め入ろう」


「はっ!」


 再び兵士たちに伝令が出て、戦闘態勢でドーチェスター城最初の白の郭の入り口付近まで進軍する。

 すると城壁の向こうから人の声や金属がぶつかり合う音が響いてきた。

 城門は開いている。

 ジーグフェルドは兵士を偵察に送ったが速攻で戻ってきた。


「申し上げます」


「どうなっているのだ?」


「はい。民衆と兵士が争っておりました」


「はぁ⁉」


「兵士たちは紋章からランフォード公爵のものと思われます」


「…………」


 首脳陣たちのお口が開いた状態になった。

 驚きと呆れの混合状態である。


「ちょ、ちょっと! ジーク! 固まってないで進軍しないと!」


 イシスがジーグフェルドの袖をツンツン引っ張った。


「あ、お。おお! そうだな……。進軍するぞ。中の者たちを救うのだ……」


「は、はぁ……」


 全員覇気がない。

 確かに拍手喝采で迎えられるなどとは思っていなかった。

 だが、場内で内乱状態の到着もまったく想定してはいなかった。

 士気がだだ下がりの国王軍である。


「城門を閉められないうちに早く!」


 イシスが言葉で皆のお尻をたたくのだった。

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