126話 勝利の予感【2】

「そうか。よかった」 


 プラスタンスよりジュリアのことを聞いたジーグフェルドはホッと溜息を吐いた。

 だが、また直ぐに苦い顔をする。

 最大の難問。

 クロフォード公爵とイシスの問題がまだ残っているからだ。


 朝食と昼食。

 イシスはジュリアの世話のため、部屋で食事を済ませた。

 そのため本日ふたりはまだ会っていない。

 ジュリアの調子が良くなったのであれば、この夕食時にふたりは会うことになる。


「はぁ……」


 先に着席しているジーグフェルドは重い溜息を吐く。


「陛下……」


 その溜息にプラスタンスも苦い顔をする。

 彼女もジーグフェルドの溜息の意味を分かっているのだ。

 そこへクロフォード公爵たちがやってきて席についていく。

 最後にイシスとジュリアがやってきた。

 全員の視線がふたりに向けられる。

 ジュリアを先に座らせたイシスは着席せずにそのままクロフォード公爵の側へ行く。


「少しお時間宜しいかな?」


「なんだ‼ その言い方は⁉」


「そうだ! 侯爵に対して失礼だぞ⁉」


「身分を弁えよ!」


 イシスの言葉に対し、クロフォード公爵の取り巻きたちが一斉に攻撃する。


「だまれ! 外野‼」


 彼女は周囲を一喝する。


「私はこの国の者ではない! ましてや誰の臣でもない! 年齢に対する礼は尽くすが、身分に対しての礼は持ち合わせておらぬ! 静かにしていろ‼」


 ひとりも民がいないとはいえ、イシスとて一国の王である。

 へりくだる必要など全くない。

 しかしそんなこと彼らには分からない。

 この態度に、クロフォード公爵の取り巻きたちはイスから立ち上げる。


「なんだと⁉」


「生意気な!」


 食堂なのでみな剣は持っていないが一触即発の雰囲気である。

 そんな状況を打破したのは、意外にもクロフォード公爵本人であった。


「みな。静まりなさい」


「!」


「公爵……」


 周囲の貴族たちに声をかけたのち、彼はイシスの方を向いた。


「なんですかな?」


「戦闘中。急いでいたとはいえ、昨日の発言に対する非礼はお詫びする」


 クロフォード公爵はジッと彼女を見つめる。


「ふぅ……」


 彼は小さく息を吐いた。


「こちらこそ詫びよう」


「!」


「公爵⁉」


 驚く貴族たちをクロフォード公爵は手で制した。


「偶然なのか当然なのかは分からぬが、状況は貴殿の言う通りになった。アフレック伯爵家の悲劇はもうどうすることもできぬが……。兵士の損害はほぼなく、勝利を収めることができた。貴殿の軍師としての功績は認める。よって、妨げとなった私の非は認める」


 あまりにも潔い彼の態度に周囲はシンと静まり返る。


「兵士のことを大切にする厚情も気に入った! そして貴殿の手腕。見事であった! ハハハハ!」


 そう言うと、クロフォード公爵は豪快に笑いだした。


「お褒めにあずかり恐悦至極」


 イシスもクスリと笑う。

 ふたりの態度に、その場いた全員が驚きまたホッとするのだった。

 その中でも一番安堵しているのはジーグフェルドだろう。


『さすがクロフォード公爵。人望があついわけだ』


 改めてクロフォード公爵を見つめる。


「さあ。食事にしよう。終わったら会議だ」


 ジーグフェルドの言葉で夕食会は和やかに進むのだった。

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