119話 静かな夜【11】
「そなた達は、今回も後方へと下がっていなさい」
自軍の指揮をとる為。
出来るだけ前線付近へと向かうプラスタンスが二人の子供達に告げる。
この戦が始まってから、いつもこうなのであった。
『まだまだ戦経験のない子供達だ。前線へ連れて行くわけにはいかない』
全体を見渡せるような後方から見学させておくのだった。
戦術本や経験者達から学ぶことも大切ではある。
だが、実際に現地で観察することはもっと重要なことだと考えていた。
そして初陣で死にかけた自分の経験。
彼等を守りたいと思う気持ちがあるからであった。
「はい。お母様」
そう言ってジュリアは馬頭を反転させた。
しかしエアフルトは不服そうにプラスタンスを見つめるのだった。
「どうした?」
今までなら素直に後方へと素早く移動していた息子の雰囲気がおかしい。
彼女は不思議に思った。
「ジオ。先に行っておいてくれ。指揮を任せる」
「分かった」
そう告げて、エアフルトの方へと馬を近づける。
「あの。母上……」
「何だ?」
「え、と……」
「どうしたのだ?」
「私も参加させて下さい!」
軍の中央ではジーグフェルドが、更に反対側の左翼ではカレルも当初から剣を振るって活躍している。
自分も彼等のようにありたいと思うのは致し方ないことかもしれない。
更に先程勃発した家督相続争いの件がある。
この戦で武勲を挙げなければ、家督はジュリアが継ぐと宣言されてしまった。
何とかして戦に参加させて欲しいと思ったのである。
「お願いします!」
エアフルトは必死に母へ懇願した。
プラスタンスは一瞬驚いて目を大きくする。
「エアフルト……」
まさかこの大人しい息子から、こんな言葉が飛び出してくるとは思ってもいなかったからだ。
本当に精神的に随分成長したのだと嬉しくなった。
しかし息子の希望に応えることは出来ない。
こんな下らない内戦で、失う訳にはいかない存在なのだから。
プラスタンスは微笑しながら優しく伝える。
「気持ちは十分に分かるが、今回も後方に控えていなさい。全体の動きを見るのも勉強なのだよ」
「ですが!」
尚も、エアフルトは食い下がった。
余程不安なのだろう。
「ジュリアの言った家督の件は、この戦には関係ない。気にするな。この様な下らぬ戦に出る必要はない。よいな?」
「……。分かりました……」
渋々ながらも了承したエアフルトにホッとするプラスタンスであった。
「では、行ってくる」
「御武運を。母上」
「ああ」
笑顔で別れた二人だった。
だが、この会話がお互い最後になるとは、誰にも予測できない悲しいものであった。
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