104話 光の灯す記憶【21】

「陛下は……。我がファンデール侯爵のルーツをご存じでしたかな?」


 アーレスは唐突に話し出した。


「ある程度は……。確かクレセンハート国がまだ南の小国であった頃。周辺の国に囲まれ攻撃を受けた際、色々な国に助けを求めた。しかしどこからも援軍はこなかった。風前の灯火だったクレセンハート国にたった一国手を差し伸べた。それがファンデールだった。と」


「そうです。それでクレセンハート国は滅びずに済みました」


「そのお話が何か?」


「陛下にはお話ししてない先がございます」


「?」


「南の小国クレセンハートと北の小国ファンデール。お互いに力を合わせ、周辺の国々を吸収していきました。そして今現在の大きさになったのです」


「そのあたりまでは伺ってます」


「そうですね。ここからが重要なのです」


 アーレスは一呼吸おいた。


「国が大きくなり安定した頃。疫病が流行り多くの者が死にました。このファンデールも例外ではありませんでした。一族の男子が全ていなくなってしまったのです」


「‼」


 ジーグフェルドにとって初めて聞く話であった。


「残されたのはたった一人の姫だけでした」


「どうなったのですか? 無論婿養子を迎えたのですよね?」


「悪い噂が流れましてね」


「噂?」


「ファンデールは呪われてる。と」


「!」


「どこから出たのか分かりませんが、その噂のせいで婿養子に来てくれる者がいなかったのです。男はみな死んでしまうと」


「くだらない」


「困り果てていたところ、ただひとりのみ手を差し伸べてくれました」


「どこだったのです?」


「クレセンハート家だったのですよ」


「‼」


「流石に嫡男は無理だが、次男を譲ってくださったのです」


「それでは……」


「そう。両家に血縁関係が成立したのですよ」


「それを機にここをメレアグリス国とし、クレセンハート家が国王となり、我らファンデール家は臣下の道を選んだのです。侯爵の地位もその時授かりました。陛下を当家に預けられたのもそういう経緯があるからなのです」


「…………」


「ご自分の出自をまだ疑ってあるようですが、私とレリアが信じられませんか?」


「そういうわけではありません」


「ではなぜ?」


「でしたら。何故双子なのにここまで容姿が違うのですか? 誕生日が一日違うのは?」


「誕生日に関しては戴冠前にも述べました。先にエルリック様が誕生され、皆が祝っているなか、エバンジェリン様はまだ具合が悪く臥せっておられました。日付が変わった頃。エバンジェリン様の様態が再び変わり周囲の者たちが慌てていると、今度は陛下が産まれてきたのです。ラナンキュラス陛下は勿論。その場にいた全員が驚きました」


「…………」


「もう既にエルリック様の誕生を知らせてしまっていたこと。双子はあまり歓迎されないこと。ましてや王家となると継承位争いになることを鑑み、ラナンキュラス陛下はその場にいた私に陛下を預けられたのです」


「オレの髪はその時から赤かったのですか?」


「そうです」


「だからオレは父上に預けられた?」


「それもあったかもしれません。その時ラナンキュラス陛下が何を考えられたかは、今となっては誰も分からないことです」


 ジーグフェルドの頭の中でまだ色々な事がグルグルとまわっていた。


「分からないことを考えても無駄ですよ。お話したことは事実で、どんなに考えても変わりません。また容姿の違いに関して説明できる者もおりません」


「だからこの争いが起きているのですよ」


「どうしようもないことです」


「母上があのように亡くなられてもですか⁉」


「致し方ございません」


「父上……」


「何度でも申し上げます。陛下は正当な血筋の国王です。全てにおいて自信をお持ちください」


 ジーグフェルドがまだ何か言いたげに口を開こうとした時だった。

 扉がノックされ医師が入ってくる。


「申し訳ありませんが、そろそろお時間が……。お身体に触りますゆえ」


「あ、ああ……。分かった……」


 引き下がるしかないジーグフェルドだった。


「父上。お休みなさい。失礼します」


「お休みなさい。陛下」


 完璧に納得できたわけではない。 

 しかし戴冠式前には知らされなかったことも聞け、ジーグフェルドの心は少し満たされていた。

 廊下を歩きながら考える。


『父上の、最後の言葉はイシスに関しても含まれているのだろうな……。自分の出自に自信がないから、戦中だから、告白もできないと愚痴ったようなものだしな』


「ふぅ……」


 盛大に溜息を吐く。


『イシス……。早く戻って来てくれないだろうか? いや、まだ告白は出来ないが……。顔は見たい』


 もう一度溜息を吐きながらジーグフェルドは自分の部屋へと入っていった。

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