94話 光の灯す記憶【11】
食事がすんだのちテーブルの上を片付け、そのまま会議へと入った。
本日夕方。
北東域とドーチェスター城周辺東側。
つまりいまだにランフォード公爵に与している者達に、何やら動きがあると報告がもたらされたからである。
このランフォード公爵城を取り戻そうとしてか、近隣の農村からも兵がかき集められているというのだ。
「懲りませんな……」
開戦以降全戦全敗しているというのに戦意喪失もせず、いまだ闘おうという姿勢を崩さない彼等。
少々ウンザリ気味のシュレーダー伯爵である。
「向こうも必死でしょうからね」
「それはそうでしょうけど……。これは少々厄介ですね……」
プラスタンスが眉間に皺を寄せ、小さく溜息を吐き出した。
先に陥落させたバーリントン伯爵城より東の北東域は山岳地帯が続く地域で、その土地柄か気性が荒く戦に長けた者達が多いのである。
これは隣国ダッフォディル国との衝突が多かったせいでもあった。
ジーグフェルド達がいた北西域とて同じように隣国クリサンセマム国の侵攻はあった。
だが、それの比ではないくらいこの地域の戦闘回数は、メレアグリス国内で群を抜いていたのである。
非常に相手にしたくない連中なのであった。
「すんなりドーチェスター城へは行かせないということですね……」
「このまま一気に攻めたかったのですがね……。そうさせては貰えないようだ」
「どうされるおつもりですか?」
「もう少しこの城に留まり、彼等の様子を見ていようと思います」
進軍のためこのランフォード公爵城を離れ動くにしても、父アーレスを何としても共に連れて行きたいとジーグフェルドは考えていた。
苦労してやっと再会できたのだから、離れたくないのである。
『いくらイシスが、驚くべき早さでかなり回復させてくれたといっても、やはりもう少しよくなって貰わなければ不安だ……』
その為、暫くここに留まりたいと思っているのだった。
『無論。現況であるランフォード公爵を一刻も早く叩いてしまいたい』
その方が不必要な戦は避けられることなど重々分かっている。
父アーレスへ彼等が行ったことを思うと、怒りが込み上げ直ぐにでもその首叩き落としたいところである。
『最重要に考えるべきは父上のことだ』
ジーグフェルドは唇を噛みしめた。
「もう一回、城行って、ランフォード、とる?」
そんな彼にイシスが声をかける。
かなり言い方が違うような気もする。
何となくジーグフェルドが煮詰まっているように見えたからであった。
「ああ! それいいかもしれんな。手っ取り早い!」
速攻でその提案に乗ったジーグフェルド。
しかし、意に反して周囲の反応は異なるものであった。
「何て卑怯なことを!」
「そうです! そのような意見をまともに取り上げないで下さい!」
「第一あの城へそう簡単に何度も侵入など出来るはずがないじゃありませんか⁉」
「冗談も過ぎますぞ!」
新規に参加している者達が、口々に非難の声を上げる。
彼等はアーレス救出の詳細を知らず、カレルひとりの手柄だと思っていた。
イシスには可哀想だが致し方ないかもしれない。
通常の常識で考えれば、至極尤もな意見だ。
更にこんな場合大抵早口になる。
《うわっ! 早口……。なんて言っているのかハッキリ聞き取れない……》
だが、表情や口調から否定の発言であることは理解できる。
しかも速効で複数から同時に攻められ、イシスが非道く不満そうな表情でジーグフェルドの顔を見た。
むくれているように感じられる。
ドーチェスター城を脱出して以降。
行動を常に共にし同じ体験をしてきているので、何も言わなくとも彼女の心の中にある言葉がジーグフェルドには分かった。
「そなたが言いたいことはよく分かる。向こうが暗殺を仕掛けてくるのはよくても、こちらが企むのは悪いのかと言いたいのだろう?」
コクリと小さくイシスが頷くと同時に、その周囲がざわめきだした。
「なんですと⁉ 暗殺⁉」
「誰がです?」
「陛下を⁉」
先ほどイシスに対し非難の声を上げた者達が、またも一斉に驚いた表情で殆ど同時に質問をする。
「おお! スオード山で刺客数十名に囲まれ、その後バーリントン伯爵城でもそうだった。そしてマーレーン男爵城では毒殺されかけたぞ! ドーチェスター城を出てから、既に三回も暗殺されかけてる。そのどれもこのイシスに命を救われた。しかもその内の一回は、彼女も命を落としかけた……」
説明しながらジーグフェルドの心の中に、マーレーン男爵城でイシスが自分を庇って死にかけた時の苦々しい気持ちが再び蘇る。
怒りからか無意識のうちに拳を強く握りしめていた。
「ちょ……。ちょっとお待ち下さい! 陛下!」
プラスタンスが慌てて口をはさんだ。
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