87話 光の灯す記憶【4】
イシスが目覚めないため皆への報告はカレルがひとりで行うこととなってしまった。
しかも、今回は今までのように小規模なものとは違う。
テーブルにはランフォード公爵城攻略に加わった全ての貴族達が着席している。
そんな中での説明だ。
やり辛いことこの上なかったが不平は言っていられない。
カレルは報告を始める。
「ファンデール侯爵は【花の郭】に監禁されておりました。その際、ランフォード公爵より拷問を受けていたため身体中に傷があり。足は……もう二度と歩くことは叶わないでしょう」
「おお……」
「おいたわしい……」
そして、救出後の道中におけるイシスの医師のような介護。
ドーチェスター城【白の郭】の様子や宰相アナガリス=モーネリーのことなどを話せる範囲で詳しく説明する。
その途中、当然のことではあるが宰相モーネリー宅やドーチェスター城【花の郭】にどうやって侵入したかなどの質問があがった。
『イシスの飛行能力を教えることは絶対に出来ない。さりとて皆が納得するような上手な嘘も全く浮かばない……』
カレルは顔を引きつらせ黙秘するしかないのだった。
特に当初から戦に参加しているグループ。
プラスタンス・ラルヴァ・コータデリア子爵たちの視線は痛い。
『難攻不落と謳われたバーリントン伯爵城攻めからだ。よく言えば神懸かり的。悪く言えば不可解な作戦や現象が平気で行われている』
『諸事の根元は国王であるジーグフェルド陛下。それに常に絡んでいるのは、何故か言語の不自由な異国の娘イシス』
『更に含みを持って噛んでいるのが、自分の子供であるカレル。そして、ジュリアにローバスタ砦司令官ヴォッシー=バイン殿……』
そして、今回も核心に関してカレルの口は貝と化している。
殆どの諸侯がこのランフォード公爵城攻めから参加しているため大きな騒ぎにはならない。
『いい加減打ち明けて欲しいものだ』
そんな思いが頂点に達しているのも事実であった。
彼等の気持ちはよく分かるが、ジーグフェルドやジュリアに司令官バインも上手に説明出来るはずもなく。
また何と言ってカレルを助けてよいのか困り果て、彼の窮地は長い間続いてしまう。
そしてとうとうカレルは恨めしそうにジーグフェルドを睨むのだった。
顔に「何とかしてくれよ」と書いてある。
「まあ……。こうやって無事に三名戻ってきてくれたのですから、過程はよいではありませんか。彼も疲れているでしょうから、この辺で終わりましょう」
ジーグフェルドは慌てて報告会議を締めくくった。
更に個別にカレルが捕まらないようにと、労いの言葉を掛けながら肩を抱き、そそくさと自分の部屋へと連行する。
こんな悪知恵だけは、本当に気が利くようになったとカレルは思うのだった。
そんな二人の背中を見つめ、またもや話を有耶無耶にされてしまったプラスタンスやラルヴァとコータデリア子爵が集まって不満気な溜息を漏らす。
「全く……」
「毎度毎度のらりくらりとお逃げになる」
「何を隠していらっしゃるのやら」
「誠。こうまで隠されると、何と申しましょうか……」
「今回は貴殿の息子が大いに噛んでおる。首根っこ捕まえて、強引に吐かせたらどうですか?」
プラスタンスがラルヴァに向かって無茶を言う。
「そうしたいのはやまやまですが。陛下が絡んでいる以上、どうやっても喋らないでしょうな……」
「では。私が!」
「わー‼ 大事な跡取りなんじゃ! 殺さんで下されよ! そちらと違って、ひとりなんじゃから!」
「人聞きの悪いことを仰いますな! ちょっと締め上げる程度でしょうが!」
「…………」
プラスタンスの抗議は二人の沈黙で否定された。
彼女のちょっとは、一般のかなりに相当するのだということである。
そこへ声がかかった。
「優秀なご子息で羨ましい。後々楽しみでしょうな?」
ラティオ=ロウ=ザ=クロフォード公爵である。
その称号が示すように王家縁の家柄だ。
遡っていくと、ジーグフェルドの父親は故ラナンキュラス国王。
その彼の母が故スカレーナ国王。
彼女の弟がラティオ=ロウ=ザ=クロフォード公爵なのである。
ジーグフェルドからすれば、大叔父に当たる人物だ。
ラティオとスカレーナは年齢が十三年ほど離れていた。
そして何かと病気がちだった父王の補佐を長年に渡りスカレーナが執り行っていたため、国王崩御の際に彼女が王座に就いたのであった。
そのため彼は外戚となり公爵の地位を与えられたのである。
領地はドーチェスター城に近い西側ロストック海に面した地にある。
港を所有しているため交易も盛んに行い、海の幸や諸外国製品に恵まれていた。
先の玉座が空になった時。
ペレニアル=ロウ=ザ=ランフォード公爵と王位継承の審議の場に就いたが、高齢を理由に退いた人物である。
身長はさして高くはないが、いまだにスレンダーな体型を維持している黒髪に白髪の混じるご老人であった。
王家の血筋であるだけに威厳と気品に溢れ、目には生気が溢れている。
ランフォード公爵城陥落直後。
そんな彼がジーグフェルドへ面会を求めてやってきた。
孫と共に自らである。
挙兵はしていない。
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