83話 悲しい再会【20】
それから数日後。
ジーグフェルド達の元へカレルからの使者が到着した。
ドーチェスター城を出る際に手配していたのである。
『救出成功。落合う先はランフォード公爵城』
その文面を読んだジーグフェルドの青い瞳が鋭い輝きを放った。
「ランフォード公爵城へ向けて出発するぞ!」
呼び寄せたアフレック伯爵達の軍も加わり進軍が開始される。
途中、防波堤役の城を二つ落とし、北西域連合軍はアッという間にランフォード公爵城を全軍でもって包囲した。
圧倒的な数の北西域連合軍に対し、罠に
しかし、包囲は出来てもそこから攻めることはなかなか難しかった。
小高い丘の上に
城壁にハシゴをかけての人海戦術になるのだが兵士を多数失うことになるため、常套手段であるがあまり用いたくない作戦だ。
『前回のようにイシスがいないから辛いな……。どうしたものか』
ジーグフェルドが悩んでいるとレオニスが進み出てきた。
「私に兵士を少しお貸し下さい」
「どうするのだ?」
「私が出立の際に使用しました道を使い、中から城門を開けましょう」
かなり危険な役目である。
そして、本当にレオニスを信じてよいのかとの懸念もまだ彼の心の中には少しあった。
しかし、真っ直ぐに自分を見つめるレオニスの真摯な目をジーグフェルドは信じることにする。
「分かった。ファンデール侯爵家の軍を貸そう」
「ありがとうございます」
「但し」
そう言って彼は付け加えた。
その日の深夜。
火矢を放ちながらハシゴをかけランフォード公爵城への攻撃を開始する。
当然城壁の上からも幾筋もの矢が飛んできた。
矢に貫かれる者やハシゴの上部で敵に斬られて落ちる者などで地面には死体が転がりだす。
そんな両軍必死の激しい攻防戦の中、右側城壁付近から大きな鬨の声が上がり、味方であるはずの城門を守っている陣営へと切り込んできたのだった。
レオニスの手引きによって抜け道から内部へ侵入したファンデール侯爵家の軍勢である。
内部の構造を知っているだけに、どこが死角となり兵士達を集合させられるかなどの知恵があり、一団となって動くことが出来たのだった。
ランフォード公爵軍司令官の
しかし、背後の敵に気を取られたり浮き足立つ者が目立ちはじめ、次第に志気は下がっていく。
そして、とうとう城の内と外の双方から押し切られ城門は北西域連合軍が占拠した。
彼等によって開放された城門から、中へと一気に兵士達が侵入して行った。
その頃レオニスとジーグフェルドそしてファンデール侯爵家の側近達数名は、城門侵攻兵士達とは別行動をとり城内部を走っていた。
城門の方へ兵士の殆どが出ているため通常よりも数は少なくなっているが、それでもかなりな人数が城内にはいる。
しかし、城門での戦闘が揺動となり指揮系統が乱れ内部が混乱しているのも幸いだった。
最も陥落寸前の城内などこんなものかもしれない。
彼等は途中出くわす兵士達を次々と薙ぎ払っていく。
そんなジーグフェルドの達に遅れることなく、レオニスも走りながら兵士達と斬りあっていった。
「次の角を左です。そしてそこが」
レオニスの言葉が終わらぬ間にジーグフェルドは正面の扉を勢いよく開けた。
「なにっ⁉」
そこにいたのは執事のガレリ=ファルックである。
彼はファシリア達とドーチェスター城へは行かず、ここでジーグフェルド達を罠に
ジーグフェルドが剣の側面で素早く彼の
「ぐはっ!」
ガレリ=ファルックは膝から崩れ床に伏した。
そこをファンデール侯爵家の者達が取り押さえる。
どうやら殺す気はないようだ。
ランフォード公爵の直ぐ側にいた彼には聞きたいことが山ほどあるので当然の処置である。
「この……裏切り者が!」
苦しい息でレオニスを見上げるガレリ=ファルックが苦々しいとばかりに呟いた。
そんな彼をレオニスは冷たく見下ろす。
「裏切り者? テフェニ殿と結託し、母を陥れ殺した貴方に言われたくはありませんね」
「‼」
ガレリ=ファルックの顔色が青く変わる。
「どうしてそれを!」
「私とて、何も知らない子供のままではないのですよ」
レオニスの勇気は、ファシリアへの忠誠だけではなく母の復讐のためでもあったのだとジーグフェルドは感じた。
その時である。
城門の方から大きな歓声が上がり聞き慣れた角笛の音が高らかに鳴った。
全てを制圧した合図である。
ランフォード公爵城陥落の瞬間であった。
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