78話 悲しい再会【15】
「早速ですが、モーネリー宰相。ファンデール侯爵がどこにいるかご存じないですか?」
「それに関しましては、私も気になっておりましたので調べておりました。ランフォード公爵に直接何度かお尋ねしてみたのですが、教えては頂けませんでした。なので周辺の者達から」
「周辺の……?」
「はい。青の近衛兵達です」
「! ……それは」
カレルがニヤリと笑った。
「表面上は大人しくしておりますが、この王宮にいる兵士達全員は今回のランフォード公爵の行いをよしとは思っていないということです」
「ジークにとってはありがたい情報だな」
「そんな彼等の中に、あの日ファンデール侯爵家の屋敷周辺を警護していた者がおりましたので、話を聞くことが出来ました。ランフォード公爵の兵士達によって捕縛されたアーレス殿は、そのまま王宮へと連れて行かれたそうです」
「捕らえたジークと一緒に
「恐らく……」
貴族達の目の前でジーグフェルドとファンデール侯爵双方を並ばせ、アーレスに「彼はラナンキュラスの子供ではない」と、いわせたかったのだろう。
また、そうでなければランフォード公爵が玉座につくことを正当化出来ない。
何故ならジーグフェルドは一度国王になることを承認されているのだから。
「だが、ジークを確保することが出来なかった」
「左様です」
「ならば生きているはずですよね? 死んでしまっては意味がない」
「そのはずなのですが……」
「どうしました?」
「一向に居場所が分からないのです……」
「…………」
モーネリー宰相の言葉にカレルの血の気が引いた。
「近衛兵達からの情報では、王宮のある【青の郭】から出た形跡はないとのことでした。しかし、どこにもそのお姿は見当たりません。地下の牢屋にすらです……」
城の地下は入り組んでおり様々な用途で用いられているが、その中の一角に囚人達を収容する牢獄がある。
「ここへ行くためには門番のいる扉を三回通らなくてはならず、最終部は行き止まりとなっております。各牢屋は岩壁でそれぞれが仕切られ、正面の通路側が鉄格子になっており、その部屋数は五です」
ここに収容されるのは貴族や王族のみであり、その殆どは国王が刑を言い渡すまでの数日間だけいる。
大半はすぐ処刑されてしまうため部屋数が少なくてもいいのだった。
そしてここ数十年、長期に渡って収容されている、つまり何らかの理由によって処刑することが出来ない囚人は発生していない。
「私も宰相という権限で国王の許可なしに、ここへ入ることを許されております。実際に確かめに行きましたが誰もおりませんでした。三名の門番達もファンデール侯爵は見なかったといいます」
宰相モーネリーはこれまでの期間、気が付くあらゆる場所を探してきた。
【青の郭】から外には出ていないようなのに内部のどこにもその姿はない。
まるで神隠しにでもあったような感じなのであった。
宰相モーネリーが暗く沈む横でカレルが苦悩の表情を浮かべる。
「どうにかならないのか……!?」
ファンデール侯爵アーレスを救い出さなければ、このドーチェスター城に向けて北西域連合軍が進軍することは出来ない。
『レリア様を失ったばかりのジークに、再度訃報を伝えるようなことにはしたくない。決して!!』
だが、頼みの綱のモーネリー宰相が居場所を知らないとあっては八方塞がりである。
カレルは唇を噛みしめテーブルクロスを強く握りしめた。
部屋中に重苦しい空気が流れる様をイシスはじっと眺めていた。
《芳しくなさそうだな……》
二人の表情から事態がよくないことは理解できるが、相変わらず状況が上手に把握できない。
初めて耳にする単語ばかり飛び交うので致し方ないのだが、もどかしく焦れったかった。
「まさか……とは思うのですが……」
俯いていたモーネリー宰相がふっと顔を上げる。
「何です?」
彼の言葉にカレルが縋るような面もちで見つめた。
「あと考えられるのは【花の郭】です」
「!」
カレルの唇の端がうっすらとつり上がった。
「後宮…ね……」
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