74話 悲しい再会【11】

 翌日朝食の席にレオニス=メルキュールとデュイス子爵の姿もあった。


 元々参加していた首脳陣達は彼等の同席に難色を示したが、ジーグフェルドが二人も側にと呼んだのだった。


「宜しいのですか?」


「ええ。構いません」


 信じるにあたうと判断したから。


 そして、食事がすんだ時にファンデール侯爵アーレスの救出をカレルとイシスの二人に頼むことを告げた。


 当然ではあるが一同は声を失った。


「お…お待ち下さい。陛下……」


 真っ青な顔でプラスタンスが必死に言葉を吐き出す。


 しかし、ジーグフェルドは涼しいものである。


「二人にはもう承諾を貰っていますよ」


「そうではなくて………」


 泣きそうな表情になった彼女をコータデリア子爵が援護する。


「カレル殿は宜しいのですが……。その…イシス殿を同行させるのは、かなり無理があるように思えます………」


「そうです。いくらマーレーン男爵城で陛下の命を救ったとはいっても、言葉もまだよく通じない異国人で、しかも女性です!」


 腰に差している剣を使った姿も見たことがない。


「いくら何でもその人選は無謀です!」


 イシスの飛行能力や刺客を一撃で仕留める剣の腕などを、全く知らない彼等にすれば当然のことである。


「その通りです。どうしても女性をというならば、ジュリアの方がまだ宜しいかと」


 プラスタンスの言葉にジュリアとカレル双方の顔が瞬時に引きつった。


『冗談だろ!』


『絶対にイヤ!!』


 心の声が顔に出ている。


めて……る?」


 場の空気を読みとったイシスがジーグフェルドに聞いた。


「だな……。うら若き乙女に何をさせるんだと非難囂囂ひなんごうごうだ」


「…?……。全く、分からないよ……」


 かなり困った様な表情で首を傾げるイシスに彼は苦笑した。


 仕草がとても可愛かったのだ。


「本当に頼んでもいいのか? かなり危険だぞ。オレも一緒には行けないし……」


「でも、私が、行ったが、いいんだろ?」


「ああ、そうだ。行かせたくはないのだが一番適任なんだ」


「ちょっと待て! ということは、オレは従者の立場か!?」


 二人の会話にカレルが割り込んできた。


「…………」


 ジーグフェルドの無言が、彼の質問を肯定している。


「…ひどいな……」


 カレルが恨めしげにジーグフェルドを睨んだ。


「仕方がなかろう。城の場所も父の顔も知らない彼女を、ひとりで向かわせるわけにはいかないのだから」


『今言ったことを全部クリアーしていたら、イシスをひとりで行かせるつもりだったのかよ!? ましてやオレに対して全くフォローになっていない!!』


 本当にイシスのオマケなのだと悲しくなるカレルであった。


「お前が一番安心して任せられるから頼むよ。でなければ彼女を行かせたりはしない」


「!!」


 あまりにもストレートな表現に不意をつかれたカレルが赤面してしまう。


 全く落としているのか、持ち上げているのか分からない。


「これじゃあ、ダメか?」


「お…おう。許してやるよ」


 国王と臣の会話ではないがカレルにのみ許されることであった。


 こちらが一段落ついて周囲に目を向けると、プラスタンス達が誰それの方が適任であるといってまだめていた。


 プラスタンスはジュリアを押し。


 コータデリア子爵は同行している自分の息子や孫を推薦している。


 そして、珍しくモンセラ砦の司令官シルベリーもが自分の部下にと発言している。


 更にファンデール侯爵家の者も志願していた。


 収集がつかなくなりそうな雰囲気である。


「心配には及びませんよ。最強の相棒だ」


「カレル!!」


 カレルの一声に一同が静かになる。


 行動を共にする彼が認めたのだからそれ以上周囲が何かを言う必要はない。


 皆そのまま黙って認めた。


「では行って参ります」


 ヤレヤレと安心し、イシスと二人出かけようとして天幕を出たカレルの袖を、追いかけてきたジーグフェルドが引っ張って引き寄せそっと耳打ちする。

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