第24話

 アデル様が幼いのに、私が捕らえられているような場所を見せるわけにはいかなかった。だから、必死で情報をかき集めて私を探し出した、と彼は言う。


「本当に、間に合ってよかったって、思った」


「オリヴァー……」


「あんな姿、もう二度、見たくないんだ。君が、血だらけで倒れているのを見て、どれほど奴らが憎いと、思ったことか」


「でも、オリヴァーは私のことを優先してくれたよね」


「当たり前だ。君の、命がかかっているんだから」


 それほどまでに、私を一生懸命に探し出してくれた彼は、今も心に傷を負っているようだ。私のあの姿で。


「オリヴァー、怖いよね」


「ああ、そうなんだ。怖いんだ……恐ろしいんだっ! あの日の君を、ふとした瞬間に思い出す…………もっと早くに助けに入れなかった自分に、怒りだってある」


「みて、オリヴァー」


「ユーフェミア?」


 私の傷は、オリヴァーや彼の手配してくれたお医者様、オギさんたちの協力があって、消え去った。もう傷痕はどこにもない。


「私、元気になったよ。今までずっとオリヴァーやみんなが、私のために頑張ってくれたから。まだ、辛いことを思い出すことはあるし、悔しいって怒鳴りたいくらい、感情が荒れることだってあるよ。でもね、

今があるのは、他でもない、みんなのおかげだし、助けに来てくれたオリヴァーのおかげでもある」


 苦しい記憶も怒りも、持っていて当然だと教えてくれた彼のおかげで、今の私が存在することができるのだ。


「ありがとう、オリヴァー」


「ユー、フェミア……」


 私の生きている証を聞かせるように抱きしめれば、オリヴァーはおずおずと、私の身体に腕を回した。


「大丈夫だよ、オリヴァー」


「うん、ありがとう」


 そうして、私たちの思いが通じ合った夜、互いの存在を刻むように、夜は更けていった。


    ******       ******


「ユーフェミア姉さま!」


「アデル様!」


 翌朝、少しの気だるさを感じながらも、遊びにやってきたアデル様とお話をする。


「今日はユーフェミア姉さまにこちらの本をぜひ、ぜひ! 見ていただきたくて!」


 急遽、来訪したアデル様は、皇太子殿下と一緒にやってきた。そして、アデル様の持ってきたという本を見た瞬間、私は紅茶を吹き出してしまうところだった。


「ア、アデル様……そ、それはいったい……?」


「ああ、これは! もちろん! ユーフェミア姉さまとオリヴァーの物語ですわ!」


 ルンルン、語尾におんぷでもつきそうなほどにご機嫌で、笑顔いっぱいの皇女殿下。


 思わず、なんだって、と聞き返さなかった私、偉い。


「ちなみに、今月の末には劇も上演予定ですのよ!」


「げほっ! ごほっ!」


 気管に入り込んだ紅茶に、噎せる。それほどまでに持ってきていた本の威力がでかすぎた。


「お姉さま?」


「だ、だいじょうぶ、です……」


「何か、嫌なことでも、ありましたでしょうか?」


「い、いえ! ただ、その、とても恥ずかしいな、と思いまして……」


「あら、大丈夫ですわ! わたくしと、お姉さまの物語も劇になりますし、本にもなりますから!」



―—――全然、大丈夫じゃないんだが。



本や劇場で上演されることに対して、キラキラで、可愛らしい笑顔を浮かべるアデル様に、皇太子殿下は楽しそうな表情、オリヴァーはいいね、と肯定的。



――――いや、それなんて地獄?




 オリヴァーと身も心も結ばれて幸せだなぁと思っていたところへ、投下されたトンデモナイ爆弾は、私の心に大きなクレーターを作ったのだった。



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転生先が羞恥心的な意味で地獄なんだけどっ!! 改稿版 高福あさひ @Fuji-lout

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