第23話

「ユーフェミア、今、いいかな?」


「うん、どうぞ」


 夜もだいぶ遅くなってきた頃、執務を終えたオリヴァーが部屋へとやってきた。


「どうしたの?」


「ユーフェミアに、伝えておかないと、と思ってね」


「な、なにかあった?」


「いや、昼間の話を覚えているかい?」


 改まって何かあったのかと不安になると、オリヴァーが昼間に私と皇太子殿下の話した内容を持ち出してきた。


「覚えてる。どういうことなんだろうって、思うけど、心は理解してるのかなって」


「さすがだね、さすが、太陽の神子の対だ」


「ツイ……?」


「ああ、太陽の神子もしくは月の愛し子は互いの存在を、対、と呼ぶんだ。互いが深くつながり合った存在である、ということからね。頭で理解できるものじゃないだろ

う、これは。言われてもすぐには、わからないからね」


「そう、だね……説明できないんだよね。なんて言えばいいのかわからないの。アデル様は、心の奥深くにあるような、えっと、その……足りない欠片が戻ってきたような、懐かしい感じなの。喪いたくない、大切な、そんな存在」


「アデル様も同じことをおっしゃっていたよ」


互いが特別な意味合いを持つ存在だからだろうね、とオリヴァーは言う。説明ができないこの話を、彼も、皇太子殿下だって、否定せずに聞いてくれた。


「アデル様はね、ユーフェミアの危険を察知していたんだよ」


「え?」


 遠く、とまでは言わないが、隣り合っているとはいえ国が違うのに、私の危険を察していたなんて。そんなことが、できるのだろうか。


「ユーフェミア、皇太子が言っていただろう? アデル様は過去の記録の中でも一番、魂に刻まれていると」


「う、うん」


 互いが魂に刻まれる存在、それが私たちだ。最初の繋がりはよくわかっていないが、それでも、どれほど自分たちが互いを大切に思っているのか。自分自身のそれがわからないほど、私もバカじゃない。


「記録では互いを大切に思いあっているからこその、記憶。そう書かれているが、実際には当人たちでさえもわからないから、真実はどこにもない」


 真実がどこにもないから、だからアデル様の叫びは強烈だった、とオリヴァーは言った。


「私から大事なあの子を奪わないで、と何度も泣き叫ぶ声を聞いた、と殿下もおしゃっていた。君の身に、何かが起こっているのがそれでわかったんだ」


「そうだったんだね。だからオリヴァーはあの時、私のことを見つけられたんだね」


 オリヴァーが迎えに来てくれた時、アデル様は発狂寸前だったそうだ。魂に刻まれるほどの大切な存在が、死にかけたのだから当然だろう、とその時に一緒だった皇太子殿下は言っていたらしい。


「見つけたのは、さすがに自力だよ。まだ幼い皇女殿下に見せられる場所ではないからね」


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