第3話 その先で待っててね、絶対ね
優等生みたいにきっちりと梳いた髪。横顔から見るとさらに目立つ長い睫毛。
「あ、見つけた!」
それから遠くからでもよく聞こえる、凛と澄んだ声。
「先輩、おはようございます!」
にこにこと満面の笑みを浮かべられると、私は何も言えなくなってしまう。
「………おはよ」
仕方がないから素っ気ない返事だけをして、同じ信号をじっと待つ。
「ねえ、先輩」
ちらちらと刺す周りの視線が痛い。頼むから往来で目立つことは止めて欲しい。
「ねえってば!」
駄々っ子のように私を呼ぶ彼は、この一年間であっという間に私の背丈を追い越してしまった。にもかかわらず、甘えた態度は変わらないのがなかなかどうして憎めない。
「あんたはもう少し自分の見た目を考えて喋ってね」
もう何度も言っていることだけど、と付け加えると珍しく彼は考え込む。
「じゃあ俺が大人しくして、あんたに声をかけるのも我慢して、勉強ももうちょっと頑張って、もっといい男になったらあんたは俺のものになってくれる?」
青になったよ。
そう言おうとした言葉は喉元に押し戻されて、胃に落ちる。そこには私が知ってる彼の表情は無かった。真夜中の空みたいな瞳が綺麗だ、なんて場違いな考えが頭の隅を過ぎる。
「………本当にそうなったら、ね。はい、青!置いてくよ!」
待って待ってと追いかけてくる声は、もういつもの甘ったれた可愛い後輩のものだった。私は熱くなった頬を冷ますように走る。
彼が追いついてくるまでに、いつもの先輩に戻らなければ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます