第3話 その先で待っててね、絶対ね



 優等生みたいにきっちりと梳いた髪。横顔から見るとさらに目立つ長い睫毛。


「あ、見つけた!」


それから遠くからでもよく聞こえる、凛と澄んだ声。

「先輩、おはようございます!」

にこにこと満面の笑みを浮かべられると、私は何も言えなくなってしまう。

「………おはよ」

仕方がないから素っ気ない返事だけをして、同じ信号をじっと待つ。


「ねえ、先輩」


ちらちらと刺す周りの視線が痛い。頼むから往来で目立つことは止めて欲しい。


「ねえってば!」


駄々っ子のように私を呼ぶ彼は、この一年間であっという間に私の背丈を追い越してしまった。にもかかわらず、甘えた態度は変わらないのがなかなかどうして憎めない。


「あんたはもう少し自分の見た目を考えて喋ってね」


もう何度も言っていることだけど、と付け加えると珍しく彼は考え込む。


「じゃあ俺が大人しくして、あんたに声をかけるのも我慢して、勉強ももうちょっと頑張って、もっといい男になったらあんたは俺のものになってくれる?」


青になったよ。

そう言おうとした言葉は喉元に押し戻されて、胃に落ちる。そこには私が知ってる彼の表情は無かった。真夜中の空みたいな瞳が綺麗だ、なんて場違いな考えが頭の隅を過ぎる。


「………本当にそうなったら、ね。はい、青!置いてくよ!」


待って待ってと追いかけてくる声は、もういつもの甘ったれた可愛い後輩のものだった。私は熱くなった頬を冷ますように走る。


彼が追いついてくるまでに、いつもの先輩に戻らなければ。

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