第3話
「あぁ・・・眠い。」
成人検査の朝は学園での日常よりも早い。
また、成人検査会場への移動は二時間を要する。
おかげで普段よりも3時間早く起きる羽目になり、瞼が重い。
僕らが生活するコロニーは、大きく7つの区画で形成されているといわれている。
普段、学生・家族が居を構える我らが学園都市Aブロック、その隣に健康診断を担う医療機関やショッピングセンターが連なる商業エリアTブロックがある。
そこから階層へ向かい、下層に農業地区Fブロック、生産地区Iブロック、研究地区Lブロックと続いている。そして、その更に下に、行政機関Gブロック、新技術革新機関Dブロックがあると言われている。
下層への移動は螺旋式エレベーターにより行い、各ブロックを縫っていくように移動するらしい。
だが、学生や一般人の行動範囲は基本AからTまでで、そこより先は能力と適性が優れた人間にしか踏み入ることは許されていない。
そして、そこに行けば一生その区画から出ることが出来ないとさえ噂されている。
”成人検査”はその決まりが適応外とされる唯一の行事だ。
成人検査はLブロックで行われる。わざわざ研究地区で行うということは、それなりの設備で高度な検査が行われるということだろう。
「あ、レオ!おはよう。」
「・・・よう。」
声を掛けられ振り返ると、我らの幼馴染・・・マナ朴木が後ろから駆け寄ってきた。
「眠そうだね。」
「うん、まぁね・・・。マナは平気そうだな。」
「ううん、そんなことないよ。凄く眠い・・・。女の子はね、支度大変なんだから。」
マナは顔をそらしたかと思うと、チラチラと俺の方を見つめてくる。
「ん?なんか俺の顔に付いてる?」
「ばかっ。」
「もう、今日で最後になるかもしれないのに・・・。」
ゴニョゴニョと何かを口にした。
「え?何」
「知らない!」
「えー・・・。なんだよーもう。」
頬を膨らせてズカズカと先に行くマナを、訳の分からないまま追いかけるのであった。
「レオ、ねぇ、連絡来た?」
「まだ何にも。多分まだ気付いてないと思う。」
そう、我が悪友シュン、成人一日目にして目出度く遅刻である。
「もう・・・何やってるのよー。あ、係の人来ちゃったじゃない。」
「学生の皆様。本日はシリリッドLブロック直行便をご利用いただき有難う御座います。これから、皆様を安全に宙の旅へお連れ致します。それでは皆様、受験情報の入った端末をかざして順番にお進みください。」
「あの・・・待ってください!まだ来てない人g」
「うわぁぁあ~、ふぅううう、間に合った。」
激しく息を切らし、この緊張感漂う中に騒がしいのが一匹紛れ込んできた。
なんか、マナの目が痛い・・・。やめて、やめてあげて・・・。
「あ、なんか来た。」
「いっそのこと、このまま来なければ面白かったのに~。」
「本当にお前って緊張感ゼロな。」
皆、シュンのマイペースさには慣れ親しんでいる、そして辛辣だ。
「コホンッ、時間が押してますので、迅速にお願いいたします。」
はぁい、と学生達は抜けた返事をし、これから自分達を運ぶ箱の中へ入っていった。
「皆様、改めましてシリリッドようこそ。本日はLブロック成人検査センターまでご案内させていただきます。それでは到着までの短い間では御座いますが、よろしくお願い致します。また連絡事項が一点御座います。誠に申し訳ありませんが、権限の関係上、Tブロックを出ましたら外観を遮断させていただきますのでご了承ください。」
「ちぇ~」「なんだよ~」「楽しみにしてたのに~」と周囲からブーイングが起こる。これから向かう場所は謂わば聖域なのだ。誰もが一度はこの目で見たいと思うことだろう。俺だってそうさ。
「一生行けなくなるかもしれないのに、残念だね。」
どことなく、今日のマナはずっと寂しそうにしてると感じる。
「そうだな・・・これが最後かもしれないのに、な。」
なんだか空気が重い。
「で~もさ、俺はマナやレオと一緒に旅が出来るってだけで満足だぜ!」
シュンは勢いよく俺達の肩に肘を乗せてくると、小っ恥ずかしいことを堂々と口にした。
「痛っ??・・・・・・もう、何調子の良いこと言ってんのよシュンっ!」
詰め寄ってきたシュンの顎に向かい、マナの右手が炸裂。
「フグォァア・・・イテェエ⁉」
「ハハッ・・・・・・アハハハハハ!」
後ろの席で倒れ伏しジタバタと震える馬鹿一名。
シュンが体を張ったおかげで、心の引っ掛かりが少し和らいだ気がする。
たった一人の親友として、内心感謝したのであった。
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