第4話

「ようこそ。研究都市クリスティアへ。私はアラン・・・本日より一週間、諸君らの講師を担当する。この期間を経て、諸君らは成人を迎える。自覚した行動を心掛けるように。」

狭い車両に揺さぶられ研究都市に辿り着くと、俺達ストゥーデントは区画中央の講堂まで案内された。

円形の部屋に無数に並べられた長机に各自腰かけると部屋は暗闇に包まれ、中心から降りてきた球儀球状の映像デバイスが俺たちの瞳を明るく照らした。

「まず、これまでの健やかなる成長を歓迎する。そして、これからの成果に期待するべく、成人に伴う一部情報の開示と権限の開放を行う。」

「情報開示?なんだよそれ。」

「私だって知らないよ。」

「・・・。」

ここに集まった学生達は、今回のことを成人するにあたっての健康診断及び適性検査としか聞いていない。

誰もの予想に反する講師の発言に、学生達は混乱を隠せなかった。

「静粛に!とはいえ、内容は膨大だ。座学では到底伝えきれない。よって、講義は網膜投影による脳内転写メモリジングにて行う。尚、本試みには膨大な情報を受信することとなる。講義中は各自、平静を保つように。」

講師が話し終えると、球儀の中心がぼんやりと輝き、光の環を解き放った。

その光は俺達の体を透過し、反射して、部屋全体を包み込んだ。



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「・・・!?」

ここは?

気が付くと、俺は闇の中にいた。

いや、これは・・・浮いている?

「マナ、シュン?・・・皆何処へ。」

「全員の深層意識内への覚醒ダイブを確認した。これより講義を行う。この方法は瞬時に情報を刷り込むことが出来る反面、取り扱いを誤れば最悪、記憶障害を引き起こすことが報告されている。くれぐれも、軽率な行動は慎むように。」

次の瞬間、グラッと景色が反転する。

脳が揺さぶられるかのような感覚に、眉をひそめた。

体が・・・いや、空間が回転したのだ。

「これは・・・。」

「諸君らの周りにあるもの。これこそが人類の源・・・命の根源、宇宙だ。私達はそこから発生し、そして星に根を下ろした。だが、我々人類は失敗した。無尽蔵の可能性と多様性により星を食い荒らしたのだ。即ち、地球の再生と母なる星への帰還・・・それこそが我々人類の悲願である。」

「なっ・・・。」

自らの意思に反して、空間は姿を変え、数々の星を流星を光帯を映し出していく。

そして、青く美しい星が現れたと思うと、それは突然燃え上がり、褐色へと姿を変えた。

とんでもないことだ。

自分達が生まれ、住んできたこの場所が偽りであると突然告げられたのだ。

はいそうですかと簡単に受け入れられる訳がない。

頭が重い。

視界がフラフラする。

今にも吐きそうな気分だ。

「いつか本来の姿を取り戻すべく、我々は我々を作り替え200年もの時が流れた。豊富な草花も十分な血肉も無く、鋼の大地の上で人類が生き永らえてこられたのは、皮肉にも母星を滅ぼしたことによる恩恵に他ならない。このような事実に動揺する者もいるかもしれないが、安心して欲しい。講義を終えれば、諸君らはこの事実を綺麗さっぱり忘れることになるだろう。」


だが・・・

もしも適合者となった暁には、この願いを胸に人類のために命を捧げて欲しい・・・。


朦朧とする意識の中、何か不穏な言葉が聞こえてきたことを最後に俺の意識はブラックアウトした。

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「・・・・・・・・・ここは?」

目を覚ますと、知らない天井がそこにあった。

「お早う御座います。ただ今の時刻はAM6:23。学生の皆様には昨日の講義の後、記憶定着のために12時間の休息を取っていただきました。」

部屋の何処かから、音声が語り掛けてきた。

おそらく、AI管理システムによる生活保護プログラムによるものだろう。

「記憶定着って。・・・何も覚えていないぞ。」

「はい、それが正常です。講義により得られた知識は皆様の深層心理にて記憶され、必要に応じて自然と引き出されるようになっております。」

「・・・ふーん。」

成人検査を迎えて丸一日が経過しているというのに、そこで起こった半分のことすら覚えていないだなんて後味が悪いにも程がある。

「AM7:00より食堂が解放されますので、食事を済ませた後、指定の時間までに講義室へお集まりください。」

味気ない食事を終え、新しく用意されていた作業着に着替え、身支度を整える。

胸の中の靄が取り切れないまま、俺は次の講義へ向かうのだった。


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