第5話 王道のレベル上げ!とその成果

マーリスと別れた後、俺たちは作戦を練ることにした。


「ここから近い国ですとグロリウス帝国ですね。通称帝国と呼ばれていて4ヶ国一の軍事力を持ってます。アルトリーからなら平原を越えていくだけなのでそんなに苦ではありませんが、街の人の噂によると最近は盗賊による被害が相次いでいるようです。こちらもそれなりの装備を準備していきたいところですね...。」


アリスがどこからか情報収集をしてくれていたようだ。


確かに入念な準備をしているに越したことはないだろう。


装備品はバロムからもらった宝玉を埋め込んだ左腕のガントレットを発注しておりすぐに出来上がるだろう。


ならやはり冒険の定番であるレベル上げをしたいところ。


且つスキルの習熟度も上げたい、特にヒールを...。


「あ...。」


俺は思いついてしまった。


「どうされました?ルクス様...。」


「アリス、今夜は寝かせないぞ。」


「えっ...。」



俺とアリスは夜中、またあの廃屋敷まで来ていた。


敷地内に足を踏み入れるとファントムと骸骨騎士がうじゃうじゃ湧いてくる。


「少しでも期待した私が...。」


「ん?なにがだ?」


「何もないです!!ウインドカッター!!」


アリスがなにやら怒って術を発動させる。


骸骨騎士がなぎ倒されていく。


「唸れ筋肉!吠えろ癒しの拳!ヒールナックル!!!」


そう、ヒールとドレインとウインドナックルがメインスキルの俺からしたらゴーストや骸骨騎士等のアンデッド系モンスターと相性がいい。


どのスキルを使ってもダメージを与えることができる上に何よりもドレインの力を上げるためのヒールを鍛えれるのだ。


アリスも魔法の特訓には持ってこいの狩場なのだ。


立っているだけで亡者が湧いてくるのだから。


そして回復薬ならローブに際限なく収納してくれている。


これで朝まで戦えることだろう。


「ルクス様!後ろ!!」


「っ!?ドレイン!!」


背後にファントムが数体、近寄っていた。


俺は躊躇なくドレインを放つ。


この体に魔力が満ちる感覚には慣れないが徐々に相手から搾り取れる量が段々と増えてきてるような気がした。


「ありがとう、アリス!」


「私を寝かせないんですよね?お互い、頑張りましょうね!」


「おう!」


俺たちは己の技をふんだんに奮っていった。



「はぁ、はぁ、はぁ...。」


「疲れた...。」


やっと朝日が登った。


あれから延々とヒールとドレインを繰り返して亡者たちを倒していて、アリスも延々と敵を薙ぎ払っていった。


後半、アリスが敵を切り裂く度に高笑いを上げるサイコパスチックになっていたことはあえて本人には伝えないでおこうと思う。


「アリス、これを続けるとしたらあと何日いける?」


「...ルクス様に合わせますよ?私はルクス様の使い魔ですから...。」


軽く引かれているような気がした。


「じゃあ、あと2日ならいけるか?」


「はい!もたろんです!」


ニッコリと安堵の笑みを浮かべている。


俺の選択は合っていたようだ。



あれから3日後、レベル上げを終えた俺たちはアルトリーを出国した。


久しぶりの外界の景色を数秒間、目で堪能する。


俺たちは自分でも分かるくらいに技の質が向上し、上位の技を習得できた。


ここで改めてスキルを見てみよう。



ルクス・ラーバイン


クラス:ヒーラー


スキル:ステソスコープ、ヒール、メガヒール、ダブルヒール、ドレイン、ワイドドレイン、ハリケーンナックル



アリス・トワール


クラス:アサシン


スキル:隠密、影潜り、黒霧、辻斬り、ダーク、メガダーク、ウインド、メガウインド、ウインドカッター



ちなみに初級の魔法は修練度により、上位のメガ、さらに上位のギガまで使えるようになる。


初級の魔法は主に属性の魔力弾を対象に当てるだけであるが、放出される魔力量に応じてメガやギガまでランク付けされる。


中級と上級魔法は初級魔法をギガまで習得した後、自動的に会得できるというシステムらしい。


今回のレベル上げで俺とアリスはメガまで習得できた。


さらに俺は2人まで同時に癒せるダブルヒール、ウインドナックルの上位互換でありハリケーンナックルを習得することができた。


アリスのウインドカッターは名称こそ変わっていないが同時に6個まで風の刃を出すことができるようになっている。



「ルクス様、周囲の魔物の数の感知をお願いします。私もたたかいたくてうずうずしています。」


「わかった。俺も筋肉が疼いているところだ。ステソスコープ!」


周囲の音を察知する。


平原にある林や茂みに中型の魔物と大型の魔物がそれぞれいた。


「中型の魔物が群れで5体、大型の魔物が個々に2体。どちらも半径500メートル以内だな。」


「グレイウルフですかね、ここらで群れで行動する魔物だったらそれが該当します。集団で獲物を狩るので少々厄介ですが、私にお任せ下さいな。」


自信に溢れた笑顔で俺に向き合う。


「じゃあ、でかい奴は俺がもらっていいんだな?」


「使い魔である私はご主人様に手柄を譲るのがマナーですからね。」


2人でニタリと笑ってまずはウルフの群れに向かう。



気配をなるべく消しながら進んだ茂みの中に狼型の魔物がいた。


野生の勘で俺たちの気配に気付き、少しくすんだ銀色の体毛に鋭い爪と牙、真っ赤な眼は俺たちを睨みつけている。


そして前傾姿勢から唸り声を上げる。


臨戦態勢ということだろう。



種族:魔物


クラス:グレイウルフ


スキル:噛み砕き、爪撃、ウインド、物理攻撃耐性



「アリス、気をつけろ!物理攻撃に耐性が付いてるぞ!」


「ウインドカッター!!!」


俺が言い終わると同時くらいのタイミングで詠唱が終わり、5つの風の刃が首を刈り取る。


「アリス、お前なにやってんの...?」


「え?先手必勝一撃必殺のほうが効率いいかと思いまして...。」


「アサシンなら影潜りで背後から強襲とか攻撃を華麗にかわして1匹ずつ仕留めるとかあるだろ...。」


俺がドン引いているのも気にしていない様子だ。


「とりあえず私は素材回収してきますね。ちなみに物理攻撃耐性が付いているのはグレイウルフの体毛が金属並の硬さで出来てるからですよ。」


ニッコリ笑って素材回収に行く。


魔法の刃ならご自慢の体毛も意味をなさなかった訳か。


俺はため息を吐き、アリスを見守った。



そこから少し走った先の林の中に次のターゲットがいた。


ゲームではお馴染みのアイツらだ。



種族:魔物


クラス:オークナイト


スキル:ぶった斬り、物理攻撃耐性、防御体勢



「あれはオークの上位種族ですね...。こんなところに居るはずないのに...。放っておくと危険です!!」


アリスの言うように俺が思い浮かべる木の槍とボロ布装備のオークとは違い、プレートアーマーに盾、斧、兜。


そして2メールとは優に超える体格、筋骨隆々の体型。


初見の俺でも分かる。


こいつらは今までの魔物よりも数段強い。


「ガウ?」


2体がゆっくりこちらを向く。


「さぁ、やってやるか!!」


俺はオークナイトに向かって走る。


それに警戒して奴らは盾をかまえる。


「唸れ筋肉!!吼えろ暴風!!ハリケーンナックル!!!!」


拳から暴風を発生させるが巨体はビクともしなかった。


「ルクス様!防御体勢の効果です!防御に徹することで攻撃を防ぐスキル...。」


そういうことか。


恐らく、遠距離の攻撃は防御体勢を作る時間を与えてしまう。


やはりこうなれば...。


「物理で殴るしかないな!!」


俺は魔法攻撃の準備をやめる。


「唸れ筋肉!!!おらあっ!!」


1体のオークナイトをぶん殴る。


「グッ!?」


ガゴッ!!という音ともに盾が凹む。


「グルオオオオオ!!」


いつの間にか背後に回っていたもう1体が斧で俺を叩き切ろうとする。


俺がしゃがむ事で回避すると斧がオークナイトにぶち当たり、凹ませていた盾が吹き飛ぶ。


これはチャンス。


「ぶっ飛べええええ!!!」


渾身の右ストレートをがら空きのボディに叩き込む。


「グハッ!!!」


数メートル吹き飛び、木にぶつかって倒れ込んだ。


しかしまだ起き上がろうとしている。


「ルクス様の拳を食らって起き上がるなんて...。」


アリスも驚いている。


「ガアアアアアアアッ!!!」


俺は背後から振りかざされる斧を避けて元気なオークナイトと向き合う。


まずはあの斧から何とかしなくては。


俺はジリジリと距離を詰める。


奴の間合いギリギリに入ると奴は斧を振り上げる。


「ルクス様!!!」


アリスが叫ぶ。


このまま斧が振り下ろされれば俺は頭から真っ二つにされるだろう。


だが俺はここで自分の筋肉を信じた。


「マッッッッッッスルパワアアアアアアアアアアアアッ!!!!」


振り下ろされた斧を真剣白刃取りの要領で受け止める。


両腕に有り得ないくらいの重さがのしかかるが俺は全筋肉を腕に集中させるが如く全身全霊全筋を持って受け止めた。


呆気に取られているオークナイトを後目に俺は次のフェーズに移る。


「ドレイン!!」


「ッ!?グワアアアアアッ!!」


レベル上げの課程で知ったのだが、ドレインは対象に触れているとより強力にエネルギーを吸収できる。


今触っている斧を通じてオークナイトにドレインをしかけたわけだが、物体を1つ通していたとしても十分に俺のドレインは通じるだろう。


そして、強力な魔物から得たエネルギーは俺の中で強力な力に変換される。


俺は左腕にアドレナリンやテストステロンを大量に纏うイメージで吸収したエネルギーを貯める。


そして、まず斧を奴から取り上げて放り捨てたあと、ガラ空きになったボディに現時点最強のストレートを叩き込んだ。


ガントレットプレートアーマーを砕き、柔らかい肉や臓器を抉る感触を十分に拳が味わった所でオークナイトの腹には大きな風穴が空いた。


振り返るとこの光景を目の当たりにした残りのオークナイトが逃げようともがいていたが俺は全力で距離を詰める。


「ガァッ!?」


「筋肉に屈しろ!!!」


今度は胸部、心臓を貫くように拳を叩き込んだ。


心臓とは左胸にあるように言われるが実は胸の中心にあり、左に少し傾いているだけなのだ。


俺はまたしてもプレートアーマーごとオークナイトの胸に風穴を開けた。


危険なのはオークナイトよりも俺の筋肉であり、信頼出来るのはやはり俺の筋肉だった。



アリスから多大な労いの言葉と賛辞をもらった後、俺も素材回収に参加した。


手術室の研修で見たことはあったが実際に生き物の腹を裂いたり、そこから何かを取ったりするのは新鮮過ぎて、血生臭すぎて、魔物も生きている物であり、俺が戦いの中でその命を刈り取ったのだと実感できた。


どの世界でも当たり前なのだが、前世では薄れていた感覚、弱肉強食が生々しくありふれているこの世界で俺は生きていかねばならないことを再認識した。



グレイウルフからは毛皮と爪、牙。


オークナイトからは鎧と斧を入手できた。


オークの皮膚や肉は臭くて売り物にならないらしい。



帝国はまだもう少し先だった。

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