第3話 魔法国家アルトリー
目の前には荘厳な城壁がどっしりと構えていた。
その中にある門には守衛が複数人で警備をしており、どの守衛も屈強な男たちであり、この魔法国家アルトリーの水際を堅牢に守護していた。
そう、もうアルトリーは目の前である。
門の前は何人かが列を成して順番待ちをしている。
行商人にはもちろん、俺たちのように自衛のため魔法を習得しようとする旅人もいるらしい。
守衛のところでは入国許可証や入国理由、滞在日数等の審査が行われるのだ。
「アリス、俺たちって入国許可証とか持ってるのか?」
「はい!主から賜ってますよ。この世界の国ならばどこでもいける、ルクス様の元いた世界の言葉で言えばパスポートですね。」
羽織っているローブの下から2枚の賞状のようなものを取り出す。
このローブなのだが中は異空間と繋がっているらしく、大きさや質量等をある程度無視して(ローブに包めるサイズなら)収納が可能であり、取り出しも自由なのだ。
実際、デビルベアーの素材や鎧ゴーストの鎧一式もここに収納されている。
「次の者、入国許可証を見せよ!」
ぼーっとしていると偉そうな門番が俺たちに声をかける。
アリスは許可証を2枚見せる。
すると門番の態度があからさまに変わる。
「し、失礼しました!滞在日数等の制限もございませんのでどうぞごゆるりと過ごしてください!」
「ありがとうございます。」
アリスがにっこりと笑って会釈をして門を通過する。
「アリス、あの許可証って...。」
「はい。貴族とかの上位階級の人間が持つ許可証で、どこの国にも行けて滞在日数の縛りもありません。主はとても便利なものを私達に授けてくださいました。」
アリスは大事そうに許可証をローブにしまう。
「俺たちがここに来た理由って、魔法の基礎を学ぶためだよな?」
「そうですよ。私もルクス様も魔力の操作は出来ますが、それはちゃんとした魔法ではないのです。魔力操作の基本と初級魔法くらいは会得しておかないとこの先はかなり厳しいので...。」
「そうなんだな...。そう言えばお金って大丈夫なのか?俺たちって無一文なんじゃ...。」
ニヤリとアリスが笑う。
「あのクマと鎧の残骸、すごく高く買ってくれると思いますよ?デビルベアーはここらじゃ希少だし、鎧は過去の兵士の物って言ってたからそれなりの値が付くはずです!」
「じゃあまずは換金だな!」
「はい!」
俺たちは換金屋に向かった。
結果、どちらもそれなりの値段で引き取ってくれた。
また、鎧の一部は鍛冶屋に流してもらい俺の武器に加工してもらえるとのことだった。
俺たちは宿屋に行き、一晩しっかり休んだあと、翌日から異国人向けに魔法の訓練をしてもらえるという教魔所に向かった。
教魔所では聖堂のような場所で俺たちを含む何人かが訓練を受けるようだ。
シスターのような格好をした女性が入ってくる。
「みなさまに今から行く魔力操作の基本と初級の魔法を覚えていただきます。では、少し詳しく説明していきますね。」
教官の話をまとめると...
魔法とは空気中に無数にある魔素を行使して発動するものであり、魔素を水に例えるなら術者は器。
器に入りきる水の量に限界があるように、扱える魔素の量には限界があるが、訓練次第では徐々に拡張できるらしい。
魔素を魔力に変換するのにはアルトリーで学ぶこと、もしくは魔鉱石を使用して変換することの二通りがあるが、魔鉱石は希少な鉱石であるため所持できる人が限られているのが現状。
魔法には火、風、水、土、光、闇の6属性があり、術者は主に2つの属性を扱うことが出来るとされている。
初級魔法ではそれぞれの属性の魔力球を作り、対象にぶつけることを主とする。
中級、上級では属性を活かした攻撃に転換して術を放つ。
俺は光と闇属性、アリスは風と闇属性が該当している。
問題は俺が全く光と闇の魔法を使えないということだ。
ヒールは光属性、ドレインは闇属性なのだがそのどちらも特殊スキルらしく、教習が終わったら魔法教会に赴くことになった。
「ここか...。」
「はい。魔力の使い方を教えてもらったので十分だったのですが...。」
俺たちは小さくため息を吐いて指定された建物に入った。
「おー、来た来た。いらっしゃーい。」
眼鏡をかけた俺と同じ年代の女性が水晶玉を乗せたテーブルを隔てて座っていた。
軽い口調がなんだか緊張感を解かれる。
「えっと、」
「まぁまぁ、座ってよ。別に変なことしないから安心して?特に横のお嬢ちゃん?」
その女性がにっこりと笑ってアリスを見る。
アリスはいつでも抜刀出来るようにローブに手を入れていたのを抜く。
俺たちは言われた通りに椅子に座る。
「君がルクス君、君がアリスちゃんだね?私はマーリス。王宮所属の上位魔術師だ。」
上位魔術師。
この国では国を守護する魔術師を王宮所属とし、中級から上級、そして王直属のロイヤルマジシャンと分類されているらしい。
中級は100人程度、上級で20人程度、王直属は5人と決められている。
このマーリスという女性はかなりの手練なのだろう。
「私たちになんの用ですか?」
アリスが単刀直入に尋ねる。
「うーん、用があるのは残念ながらルクス君のほうなんだよね。君は光と闇属性の適正があるけどヒールとドレインしか使えないみたいだね。報告は受けているよ。あとはもう1つ風属性のスキルを後天的に持ってるけどそれは例外として。」
「はい。それってなにか問題なのでしょうか?」
「大問題だねー。ヒールはともかく、ドレインなんて魔法はもう絶滅してる魔法だからね。一部の魔物しか扱えないその魔法をなぜ君が持っているのか非常に興味深いのと、エネルギーを吸収するその魔法は私たち魔術師には特に脅威なんだよね、正直なところ。」
軽い口調ながらも結構神妙なことを言われている気がする。
これってもしかしてこの国から出られないとか...?
「じゃあ、私たちを監禁でもしますか?それともここで消すつもりですか?」
アリスが臨戦態勢に入る。
「ははっ。アリスちゃんは勇ましいねー。消すとかなら造作もないんだけどさ。まずは調査から入らせてほしい。君も力のルーツを知る機会にはちょうどいいだろうし。」
消すなら造作もない。
この言葉は本心だろう。
上級魔術師であり、ここはこの人の領域だ。
俺たちに勝てる要素はひとつもない。
ここは言う通りにするしかなかった。
「...分かりました。俺はどうすれば?」
「とりあえずそこに置いてある水晶玉に魔力を送ってみて。」
「その水晶玉は安全ですか?」
アリスが尋ねるとマーリスは呆れて笑う。
「罠なんて何もないよ。それに捕らえるつもりならこの家に入った瞬間に捕縛の魔術を使うさ。さぁ、気兼ねなくどうぞー。」
俺はアリスと一瞬目を合わせて魔力を水晶玉に送る。
透明な水晶玉が白く光った後、黒く光り、最後に透明に戻る。
「ふーん...ふむふむ。にゃるほどにゃるほど。」
その一連の光景を見ながらマーリスはなにやらメモをしていく。
「ルクス君ってさ、前世の記憶とかあるのー?」
唐突な質問に咄嗟にアリスを見る。
アリスの瞳からは何も言わないほうがいいという意思がこもっていた。
「さぁ、知りませんね。」
「ふーん。君、前世では他人を癒す職業をしていたそうだよ。そんでもってその職業の中で血液を扱う作業があったみたい。それがこのドレインっていう魔法のルーツみたい。」
確かに看護師の業務の中で採血の技術がある。
すると、このマーリスが言うことはかなり整合性がある。
スキルや魔法に関しては前世での影響を色濃く受けるらしい、と以前アリスが言ってたことと合致する。
「ルーツが分かったところで、ここからが本題なんだけどね。君たちには王宮からの依頼をこなしてほしいんだよ。」
「王宮からの依頼?」
アリスが目を丸くする。
「そうそう。この国の郊外に廃屋敷があるんだけどね、そこにゴースト系の魔物が大量に発生してて困っているんだよねー。それを是非、君たちに退治して欲しいんだよ。」
「魔術師が動かないってことはそれなりの事情があると察してもいいですか?」
アリスが鋭く指摘する。
「ははっ、君は頭いいねー。どうやらそのゴースト系の魔物の中にドレインに似たような魔法を使う魔物が観測されててね。あまり魔術師を派遣してエネルギーを吸われて強大化されても困るのさ。この依頼をこなしてくれれば国内での自由は保証するよ。」
「それって依頼を拒否したら監禁されるってことですか?」
俺が尋ねるとマーリスは少し邪気を含んで笑う。
「魔力封印の魔具を付けてもらい、王宮が管轄する施設で拘束させてもらう。それすら拒否するならこの場で私が強引に叩きのめす。」
マーリスの周りに濃い魔力のオーラが発生する。
正直、圧倒されるレベルの魔力量だ。
アリスも怯んで動けていない。
「なーんてね。それにここだけの話、ゴーストからドレインで得られる魔力やスキルは結構なものになると思うんだよねー。」
オーラが消える。
俺たちはほっと胸を撫で下ろす。
確かにデメリットよりもメリットのほうが大きい。
そしてなによりも王宮からの依頼ということで、この国自体に貸しを作れるのは魅力的な気がする。
「分かりました。請け負いましょう。日時と場所を教えてください。」
「助かるよー。じゃあ、依頼の詳細に入るねー。」
こうして俺たちは廃屋敷のゴースト討伐に打って出ることとなった。
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