ユートの過去


神崎 悠斗



彼は神崎流道場の跡継ぎとして生まれた


彼の祖父は神崎流十八代目


本来なら父親が受け継ぐはずの十九代目

彼の父親は彼が十歳の時に亡くなった


理由は彼が暴漢に殺されそうになったのを庇った為


暴漢はその後、駆けつけた警察に取り押さえられた


暴漢はお金がありそうな家を狙って強盗を繰り返していた


そして強盗に入った家にいた人は全て惨殺されていた


だが彼は助かった

それは運が良い

しかし、彼は失った、父親と自分の眼を…







その日以来彼は塞ぎ込んでいた


自分がいなければ父親は死ななかった


自分が強ければ父親は死ななかった


もう自分には何も無い


母親は自分を産んですぐに息を引き取った


自分は疫病神だ


自分は疫病神だ


毎日呪いのように部屋でブツブツと言っていた


そんなある日、彼の祖父が部屋に入り彼の耳元でこう呟いた




「悠斗

お前は自分のせいだと思っているかもしれん

だがな、悪いのは悠斗じゃない

世の中にいる悪が悪いんだ

お前の父は悪の魔の手から自分の(宝)を護るために戦ったんだ

お前の母親から託された(宝)をな

それにな、お前の父親と母親はお前の眼になるようにお前に力を与えてる

父親から教わった知識(脳)

母親から受け取った命(心)

お前はそのままでいいのか?」




「…………じいちゃん!俺…悪を許さない!」




祖父は笑顔で悠斗に言った



「明日からビシビシ行くぞ!もう一ヶ月訓練してないからな!」


「はい!よろしくお願いします!師匠!」


服でゴシゴシっと顔拭いて悠斗は眼を開いた


今まで暗闇しか見えてなかった眼に一筋の光が差し込んだ日だった






それから悠斗は変わった


眼が見えないハンデがある


毎日毎日祖父に倒され、転がされ、打ちのめされた

しかし、頭で考え心で感じていた



祖父が言った言葉を……



「全ての物に命が宿る

ならば感じるものもある

それをモノに出来た時お前は、私や父親をも超える

祖先をも超えるかもしれん」




その言葉を聞いてから

毎日来る日も来る日も擦り切れるまで精神を研ぎ澄まし鍛錬を繰り返した








それをモノにできたのは悠斗十八歳

大人になってからの初めて第一歩

大きな前進だった







それから彼は祖父から神崎流の奥義をできるだけ覚えた


「ふむ。もうワシを超えたな

さすがは我が孫!父親も母親も喜んでいるだろう

だが、悠斗忘れるな!神崎流は実戦術

使い方次第では悪にもなる。心を強く持て!」


「はい!ありがとうございました!師匠!」


悠斗は晴れ晴れとした顔をして祖父の顔を見た







それから彼は祖父の【仕事】を手伝い

世の中に蔓延る悪と戦いが始まった













悠斗が三十歳になった時彼は亡くなった


亡くなった理由を聞くと彼の友人、仕事仲間はみんな納得したかのように頷いた















「ママー!わたしあのおにいちゃんにたすけてくれたおれい、おれいいいたいの!!」

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