第四章 肝心なこと

「ほなみんが仕事をしてきた……?」

 どいつもこいつも失礼という言葉を知らないのだろうか。

 一人先に呼ばれてほなみの部屋のベッドで寝そべっていたゆづきが、入ってきたほなみたちを見るなりに言った。

「伝えたでしょ。メンバー見つけてきたって」

「でも昨日の今日だよ?」

 ほなみだって予想外だったのだ。昨日の今日で村雨から芋づる式に三人揃うなんて誰も思わないだろう。


 第一公園から四人でほなみのマンションへとやってきた。

 十二畳一間で流石に五人は多い。椅子も二脚しかなかったため、それぞれ思い思いの場所に座る。ゆづきはそのままベッドで心持ち身体を上げ、ほなみはソファに腰掛け、村雨は床に正座をし、イリスが椅子に腰掛け脚を組み、くらのはイリスの横に立った。

 くらのに「座ったら?」と促したが、そこが良いと断られる。

「そっちの子にも自己紹介した方がいいわね。私はイリス・アイ。それで、この子がもともと私に仕えていた婦二倉くらの」

「わたしは、修理士をしている詩家五村雨ですー」

 イリスが最初に切り出して自己紹介をする。くらのが頭を下げ、村雨は片手を挙げ軽く挨拶をした。

「え? イリス・アイ? まじもん? 同姓同名?」

「そう! 何を隠そう私がまじもんのイリス・アイよ! 証拠はこれ! アイドルをしたいっていうのはあなたが発端なんですってね? お名前を訊いてもよろしいかしら?」

 言葉だけじゃ信じられないと思ったのか、イリスがディスプレイを立ち上げて己のプロフィールを表示させた。第三世代以上に地味なデザインの枠。イリス・アイの名前がしっかりとそこには刻まれている。そこは見られたくないのか、製造年月日と年齢をイリスが手で隠す。

「はえ~~~本物なんだ~~~はあ~~~あ、えと、八戸瀬ゆづきです」

 ゆづきがイリスを上から下までじっくりと眺める。まあ、誰だってそんな反応になるだろう。

「よろしく。ゆづきさん。アイドルとは良いところに目を付けたわね……まさに私にとって、天職と言っても良い、うってつけの仕事だわ!」

「は、はあ……仕事?」

 誰に対しても物怖じしないゆづきだが、流石にイリスに対しては緊張するらしい。イリスの存在は人間天使にとって、やはり特別なのだ。イリスはそんな反応に満足している様子。

 だけどやっぱり想像とは違うようだ。随分戸惑っている。

「ええ。もう、開発局の連中ったら、私が何かしようとする度に、イリスさんは座っててくださいとか、私たちに全てお任せくださいってばっかりで――」

 思い出しているのか苦虫を噛み潰したような顔をした。能力的に現場に立ってもらうわけにもいかず、かと言って邪険に扱うには難しい、人間天使の象徴のような存在、想像するだに現場のやりにくさが伺える。先ほど言っていた名誉職というのもそのまんまの意味なのだろう。

「ほへ。開発局にいるんだ。てゆーかイリス様もアイドル知ってるんだねえ」

「当然よ! 私の若い頃はアイドル全盛期――いいえ、戦国時代と言っても過言ではなかったわ。それこそ、正統派、邪道、派生グループ、ソロ、地下アイドルに至るまで、まあ~色々いたわ! 一時期、沼に嵌ってグッズたくさん買い漁ったもの!」

 遠い目をするイリス。

 クールな第一世代と比べて随分俗っぽいというか、ミーハーというか。

「お嬢様を開発した研究員の方々がグッズの請求額に驚いていたものです」

「忘れなさい」

 村雨と似たようなタイプかもしれない。感情を抑制する機能が壊れているらしい村雨と違って、イリスの場合は当時そんな技術が無かったのか。

「それで? 曲は? どんな曲をやるの?」

 イリスの質問にはほなみが答えた。

「いえ。曲はこれからです。どんな感じかと言えば、正統派アイドルみたいな普通のポップスで考えてますけど」

「ま、そうよね。曲を作るにも依頼しなきゃいけないし、だとしたら最初はコピーからかしら? まあ、始めは仕方ないわよね」

 そういえば曲はどうするのかと、視線を言い出しっぺであるゆづきに向けた。ゆづきはそんな視線を受けて不敵に笑う。跳ね起きてギシッとベッドが音を立てた。

「ふっふっふ! そう言われると思ってゆづきが作ってきたの!」

 どうやら最初から用意していたようだ。

「曲を? 凄いのね。あなた何者?」

 ゆづきがベッドから跳ね起きる。

「まだ言ってなかった! ゆづきはメタルバンド、サドンデスのギタリスト! 作曲もしてるよ! まずは、これ! 聴いてみて!」

「サドンデス……知らないわ」

 所詮この国ではアングラなジャンルである。知らないのも無理はない。

 ゆづきはほなみの部屋にあったスピーカーに音声ファイルを飛ばした。

「これは……」

 のっけから激しいドラムのフィルインが始まり、畳み掛けるようにベースの重低音とギターのリフが同時に始まる。続いてボーカルの割れんばかりのシャウト。

「ボーカルはね? とりあえず、しょうこに頼んだの」

 しょうことはサドンデスのボーカルのことだろう。ゆづきはにこにことその場にいるみんなの反応を伺っている。耳を傾けること暫し。

「これってアイドルなんでしょうか?」村雨が戸惑いながらも訊いた。

「ゆづき……これは、たぶんアイドル曲じゃないと思う」ほなみが諭すようにゆづきに言う。

「……やっぱり?」

 その反応だと聴かせる前からほなみたちの反応は予想していたらしい。

「ゆづきさん、それに歌詞もアイドル曲っていうより、メタルのそれじゃないかしら……そっちはあまり詳しくはないけれど……」

「そういえばイリス様ってアイドルに詳しいんだよね? ゆづきもアイドルって最近ハマったばっかりだから、歌詞付けようと思っても今まで通りにしかなんないの。よくわかんない」

 サドンデスの看板ボーカルが、神を殺せ、俺を殺せ、などと物騒なことを重低音に合わせて歌っている。ただ重くて速いだけの曲じゃない。歌詞も含めて正にヘビィだ。

「ゆづきさんはこういう曲がやりたいの?」

「ううん。なんていうか、もっと、もっとかわいくて、きらきらしたの。こういうの」

 ゆづきが曲をストップさせた。そして昨日ほなみに聴かせたアイドルソングを二曲続けて流す。

「ああ……懐かしいわね」

 この人間天使は一体何歳なんだろうか。その場の誰もが思ってそうだ。

「実際にゆづきさんの作ったようなメタルソングを歌って人気が出たアイドルだって昔いたのよ? でもゆづきさんが今聴かせてくれた曲から思うに、やりたいのは王道のアイドルよね? そうすると、曲調から歌詞から全て変えなくちゃならないわ」

「イリスさんからしてみて、アイドルソングの歌詞の特徴ってどんなものなんですか?」

 村雨が訊いた。イリスは顎に手を当てて考えながら言葉を紡ぐ。

「そうね――愛や恋を歌ったものが多いんじゃないかしら? そこに季節を絡めたり、バラードっぽい曲なら人生について歌ってみたり」

「むむむ……。愛や恋……本能が拒絶する……」

「あなたが歌うんじゃないの……?」

 呆れたようにイリスが言うが、ゆづきはぶんぶんと手を振った。

「違う! 違うの! 歌いたいけど、ゆづきが書くと思うとなんか胸の辺りがむずむずってするの! たぶんこれ、ゆづきの性能的な問題なんじゃないかな? そうだ! イリス様が歌詞書いてよ!」

「ええ……? 私? いきなりね」

「良いんじゃないですか? くらのは見てみたいですよ。お嬢様の書いた歌詞」

 くらのの言葉にイリスが、

「そ、そう?」

 と、恥ずかし気に言った。ほなみを見てきたのでとりあえず頷いておく。

「うう……わかった。でも、曲が無いとどうしようもないわよ。そこはどうするの?」

「それなんだけどね? みんな来週の日曜って予定空いてる?」

 ゆづきの質問に皆、特に予定は入っていないとそれぞれ答える。

「じゃあさ、みんなで思いつく限りの鼻歌を録音してゆづきに送って欲しいの! それを元に曲を考えるから! で、曲調はもうちょっと使うコードとか明るくして、ドラムを打ち込みにしたりしてみるから! 難しいかもしれないけど、なんとかしてみるよ。日曜までには形にするから、なるべくたくさん送ってね!」

 音楽用語のことはさっぱりわからないが、ゆづきなりに工夫してみるようだ。しかし、素人の鼻歌なんかが役に立つのだろうか?

「ちっち。ほなみん。どんな名曲だって案外ふいに口ずさんだ鼻歌から生まれてたりするんだよ?」

 そんなものなのだろうか。ほなみにはわからないが適当に口ずさんで歌ったものを送ればいい、という簡単な作業ならほなみにだって熟せるだろう。たぶん。

 それから全員でアドレス交換をして一旦解散という流れになった。

「くらの、行きましょう」

「また……お側に置いてくださるのですか?」

「なに言ってるの。今日から前みたいに一緒に住むわよ」

 くらのの言葉にイリスは当然といったように頷く。

 くらのの心の底からの笑顔を、その時初めて見ることができた。


 日曜午前十時。ゆづきからの招集により、四人はほなみたちが住む地区から電車に乗って十五分行った先にある、ビルへと来ていた。目の前には三〇階建てのビルがそびえ立っている。

「おっきいですねー。えーと、レッスンスタジオは七階でしたっけ? ゆづきさんは先に来てるんですよね」

 村雨の言葉にほなみが頷き、建物の中に入って行く。主にレコーディング、ダンスレッスンで使用される、第一線で活躍するプロ御用達の施設である。

 本来ならば、ほなみたちなど入ることすら難しい場所であるが、第一線で活躍しているゆづきがいる為、許されている。

 第五世代以降の人間天使たちの姿が目立つ。村雨は馴染んでいたが、ほなみとイリスは明らかに浮いていた。パッと見で第一世代、第三世代と分かるのだ。第二世代であるくらのは、現存する個体数も少ないため目立ってはいない。イリスは堂々とした振る舞いだったが、ほなみはこんなところにいて良いのかと少し気後れしてしまう。

 七階の奥にあるダンススタジオ三号室という部屋に到着するとゆづきが部屋の中央でぺたんと座っていた。

 壁が一面鏡になっていて、床が板張りのよく見るスタジオである。用意していた上履きでキュッキュと床を鳴らして部屋に入って行く。

「曲、できたの。どうかな? どうかな? これ」

 ゆづきは、開口一番に言い、全員が挨拶する間もなく部屋に備え付けられていたスピーカーから曲を流し始めた。

「あら。もうほとんど完成しているのね」

 誰に言われたわけでもなく、全員が部屋の中央に車座になる。

 四つ打ちのダンスナンバーだった。ゆづきの持ち味であるギターも大分抑えられている。ズンズンと刻むような音だったギターはバックでコードを鳴らして音を抑え、ドラムも激しいフィルインなどは行わずにただひたすらリズムを刻むのみ。アップテンポな曲ということもあってBPMは速めだが、流石にこの前聴かせてもらったメタルよりは遅い。

 メロディはしょうこが歌ったものではなくシンセで弾いただけのもの。しかし、この前のものより口ずさみやすい。耳に残る。

「だいぶそれらしいですねえ」

 村雨が関心したようにゆづきに言った。当のゆづきも、

「でしょでしょ!? 研究したの!! メロディは村雨ちゃんが送ってくれたの使ってるよ! 他はゆづきで考えたけど、みんなが送ってくれたメロは違う曲作る時に絶対活かすからね」

 と、まんざらでもない様子だ。村雨も感心しきりだった。

「あー。これ、わたしが送ったやつですかあ。凄いですねー。あの鼻歌がこんなんになるなんて」

「それからこっちも」

 それまで流していた曲をワンコーラス流し終わったところで止めて次の曲を流す。

 今度はスローテンポのバラードだった。例え下手でも、全員で歌えば映えるんじゃないかと思える優しいメロディ。

「よくここまでできたね。期間短かったのに」

「あはは……。まあ、いつものに比べたらちょっとは弾きやすいからね。それにざっくり作っただけだよ。ここからちゃんと完成させるもん」

 ほなみの言葉にゆづきはしきりに照れていた。

「さて、イリス様。歌詞できた?」

「……出さなくちゃ、だめ?」

「駄目。恥ずかしくてもいいの! だんだん慣れるから! そのためにイリス様にだけ、ちょくちょく送ってたんだし!」

 どうやらここに来るまでに二人でやりとりしていたらしい。歌詞を付けるのにも、元となる曲が無くては叶わないからだろう。ほなみは少しもやっとした。

「うう……はい!」

 イリスがノートを差出した。今どき珍しいアナログである。何度も書き直した跡が残っている。悩みながら書いたのだろう。

 横からさっとくらのが奪い取りノートを開く。

「夏色の眼差し、君とだけときめき、」

「音読はやめなさい!」

 構わず音読し始めた。襟元を掴んでイリスが止めようとするが、くらのはノートを離さずに音読を続ける。明らかに楽しんでいる。

「シンデレラに憧れ、王子様を待ってる、恋に恋するバケーション、夢に夢見る乙女たち、二人だけの季節が今はじまる、愛愛愛愛愛してる、恋恋恋恋焦がれ、裸足で駆け出す夏の雲追いかけ、愛愛愛愛愛してる、恋恋恋恋焦がれ、今このときは私とあなただけ……………お嬢様? しばらく見ない間に精神機能に異常が?」

 くらのの辛辣な言葉にイリスは体育座りで膝に己の顔を埋めていた。耳が真っ赤になっている。くぐもった声が聞こえてきた。

「……だって。アイドルってこういうものよ。恋に恋する年頃の乙女の心情を歌うのがアイドルってものだと思うんだもん」

「だもんって。恋する年頃って年齢じゃないでしょう。お嬢様、ちなみに今年で何歳になったんですか?」

「1208」

「ふ」

「わ・ら・う・な」

 襟首を掴み、くらのの身体を持ち上げ始めたイリスを村雨が「どうどう」と諌める。当のくらのはまるで動じていないが。

「イリス様? これ、アップテンポな方の曲の歌詞だよね? バラードの方もある?」

「あるわよ……はい」

 なんだかもうどうにでもなれといった風にイリスは次のページを捲り、くらのは続けて音読を始めた。イリスは体育座りで顔を埋めたまま動かない。


「うん。うん。イリス様。良い! 良いと思うっ。ゆづきもアイドルってこういう感じだと思う! みんなはどう?」

「アイドルっぽいとは思う」

「イリスさんが書いたと思うときゅんとくる。かわいい」

「まあいいんじゃないですか」

 ほなみ、村雨、くらのからも否定的な意見は出てこない。

「それにちゃんと歌詞になってるし! これ文字数とかもメロディにぴったり収まってるし、それに歌ってみると――」

 ゆづきはアップテンポな曲を流し始めた。そしてイリスが書いた歌詞に合わせて歌う。

 ほなみもゆづきとの付き合いは長いが彼女の歌声は聴いたことがなかった。歌う職に就いていない人間天使が人前で歌を披露する機会などほとんど無いのだ。

 ゆづきの歌は音程を外してはいないが、伸びがなくて正に素人の歌という感じだったが、不思議と曲にマッチしているような気もした。

 子供っぽい声質がそう感じさせるのかもしれない。なんとなくほなみはゆづきに見せてもらったマイクロ少女を思い出した。歌は上手ければ良いという物でもないらしい。

「凄い! ほんとーに初めて書いたの? 歌いやすいよ、これ!」

「どういうこと?」

「素人さんの書いた歌詞って実際歌ってみると歌いにくかったりするの。これにはそれがないの。例えば最後の言葉が「んー」で終わってたら歌いにいでしょ? 作詞って言ってるのに、文章っぽかったり。結構あるんだよ。悩んでる時に歌詞書いてってメンバーにお願いしたら、小説みたいな物出してきて、ここから直して修正して使ってとか言ってきたり。でも、これなら手直し無しでそのまま使えるよ」

 んーと歌うより、あーと歌う方が歌いやすいということだろうか。文章っぽいというのは理解できる。ただのポエムになっているとかそういうことだろう。

 イリスの書いた歌詞は一見すると「こんなんでいいのだろうか」と感じたが、ゆづきが歌っているのを聴いていると、これくらいの方が曲に合っているかもしれないと思えた。

「それじゃ、歌詞をみんな覚えてもらって……イリス様、データはある?」

 ゆづきがイリスに問いかけると、イリスの名前で歌詞データが添付されたファイルがメールで一斉送信された。

 添付されたファイルを開いてインプット。流石にこのくらいの歌詞なら第三世代でも第一世代でもスピードの差こそあれ、データさえあればすぐに覚えられる。

 ちらりとイリスを伺うと顔を上げてゆづきを見ていた。いつの間にかイリスがゆづきに身体をぴったりと寄せている。くらのがその姿を見ていかにも不満気だった。低学年の女子に意地悪してしまう男の子のようだとほなみは思う。

「どしたの?」

「解ってるわね。ゆづきさん」

「?」

 ゆづきはよくわかってない様子だが、懐かれて嫌な気はしないようだ。

「ほなみさん、ほなみさん、わたしたちもいちゃこらしましょうよ」

 村雨が寄ってきたのでほなみは避けた。


「じゃ。みんなで一旦歌ってみよう!」

 そういうことになった。先ほどの曲をみんなで聴き、今度は歌詞では無く、メロディや抑揚が入った歌唱データをインストールする。


 人間天使にとって、「覚える」という言葉の意味は、人間とは異なる。

 聴いて、見て、身体の感覚で覚える。そのような非効率的なやり方は人間のそれで、人間天使はデータとして自身の身体にインストールする。

 そうすることで、元となる物を完璧に近い形で再現できる。

 元となるデータファイルが無ければそれもできない。

 それができるならば歌手になることだって可能だし、データさえあればいいなら他の専門職だってよりどりみどりではないのか? と、言うとそう簡単でもない。

 プラスアルファで人間天使としての特性が必要なのだ。

 やはり特別仕様には敵わないのである。

 結局人間にも向き不向きがあるように、人間天使にも向き不向きはある。


 まずはアップテンポな曲。インストール完了後にみんなで一斉に歌ってみる。

 ゆづきが「ふむ」と言って曲を止めた。

「ほなみちゃんから順番に歌ってみてくれないかな」

「……わかった」

 一人で歌うのはみんなで合わせるのと違って抵抗はあったが、ほなみは歌った。続いてイリス、くらの、村雨と順番に歌っていく。

 ――なるほど。面白い。

 それぞれ傾向がまるで違うのだ。イリスはザ・棒読みといった感じ。まさにプロトタイプのロボット風。いくらデータをインストールしたところで機能差は埋められないようだ。同じく古い世代のほなみもイリスと近いだろう。多少はマシか。村雨は可愛らしい歌声でまさにアイドルといった感じ。一番上手かったのは意外にも第二世代であるくらのだった。皆が褒める。

「くらのの歌……そんなによろしかったのですか?」

 当の本人は、当惑した様子だった。ほなみには理解できる。第二世代はずっと周囲から出来損ない、ポンコツ、すぐ壊れると言われ続けてきたのだ。なぜこんなことが起きたのかと言えば――。

「たぶん色んな世代のパーツを使っているので、それによってくらのさん特有のゆらぎが生まれたんじゃないですかね? ほら、音って波でしょう? 全て第二世代のパーツだったらこうはいかないと思いますよ」

 くらのを改造した村雨が少し自慢気に解説していた。

「だ、そうですよ。お嬢様」

「へ、へー。よかったじゃない。べ、べつに? 悔しくなんてないしー?」

「ナツイロノマナザシ~」

「真似すんじゃないわよ! ていうかそこまで棒読みじゃない!」

「アイアイアイアイアイシテル~」

「あはははははっ! くらのさん、イリスさんにそっくりー!」

「笑いすぎだわ村雨さん! くらのも!」

 楽しそうな主従二人とプラス一人。で、結局これがなんなのだろう。

「ゆづき。結局これで何がわかるの?」

「やっぱりそれぞれにソロパートって必要かな? って思って。メタルバンドみたいに楽器が前に出てくるんじゃなくって悪魔でも歌が主役なんだから。最初から最後まで合唱してるのも悪くないけどつまんないよね。安心して! 二曲あるんだしみんなに花は持たせるから! これもまた来週までに振り分けて送るね! 今日はみんなの歌声録音させてね!」

「私、ソロはいいよ……」

 ほなみは自身無さ気に答えた。

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