知り合いたくはなかったな同期よ

 俺は女性が苦手だ。

 仮に女性の部屋に呼ばれようものなら、隅で三角座りをする以外の選択肢が浮かばない。





「ほらほら悠馬ゆうま、もっと飲めー!!」


 ダメだこの人。

 一番酒を飲ませてはいけないタイプの人だ。

 碓氷うすいさんは、逃げる俺の肩を、ガシッと力強く掴み、強制的に振り向かせては、瓶ビールをそのまま口に突っ込んできた。


 い、息がっ!?


 俺の隣に住む、碓氷うすい穂奈美ほなみさんの部屋で、俺は彼女に酒を飲まされていた。

 遠のく意識の中で、俺は今日を振り替えっていた。





「えー!悠馬うちと同い年じゃん!」


 厳密には、俺はまだ誕生日が来てないので同い年ではない。

 いやそんなことはどうでもいい。

 どうしたこうなった。

 なぜ俺は女性の部屋にいるんだ。

 えーっと、今日はバイトがなかったから、大学が終わったあと直帰して、家に入ろうと思ったら、隣の部屋の人とばったり会い、その人がまさかの、今朝家の前で倒れて(寝て)いた女性で、お礼と称してなぜか部屋に呼ばれ、今に至るわけか。

 ……………なぜ?


「いやー、しかし悠馬ってすごいよね」

 何が。


 っていうか、さっき知り合ったばかりなのに、呼び捨てってあんたすげぇな。

 いや別にいいけどさ。

「だってさぁ、うちみたいな美人が道端で寝てたら、大体の男はお持ち帰りしようとするか、さりげなくおっぱい触ってくるよ?」


 色々と突っ込みたいが、とりあえず自分で言うことではないと思うが?


「いや仕方なくない?だってみんなそう言うし、寄ってくる男はみんな私に手を出そうとするし」


 ………さいで。

 ただいま強欲という七つの大罪のうちの一つを垣間見た気がするよ。

 まぁ謙遜は日本の美徳という人もいるが、ある意味ナルシストがいても良いと俺は思う。俺はそうはなれないけども。


「でもさぁ、悠馬って何?男が好きなわけ?」

 断じてない。

 そんな感情は一ミリたりともない。

 俺はノンケだ。

「ほんとにぃ?私を目の前にして何もしないとかびっくりしたんだけど。おっぱいも触らなかったし」

 誰が触るか。そんな犯罪まがいのことをしてたまるか。

 ってか朝のこと覚えてるのかよ。

「なんとなくだけどねー。あ、しかもちゃっかり水を置いてくとか、紳士かよ」


 そんな人初めてだったよー、と笑っている碓氷さん。

 今まで出会った人がヤバかっただけじゃないのかそれは?

 しかも、あんな人目につくところで間違いを起こせば、一瞬で警察の世話になってしまう。御免だね。


「今だって全然うちの方見ないしさー」

 やめなさい。そんな態勢をするんじゃない。

 並んで座っていた(距離はとってる)俺たちだったが、碓氷さんは、俺の方に手をついて身体を傾けてくる。さながら谷間を見せるかのごとく。

 碓氷さんは、部屋着だからーと言って、今はもこもこのホットパンツに、上はキャミソールに薄手のパーカーを羽織っているだけ。しかも碓氷さんはそれはそれはスタイルが良く、出るとこ出ていて肌もきれいだ。

 惜しげもなくきれいな脚があらわになっており、正直芸能人と言われてもなんら疑わないくらいきれいな人だ。


「もしかして悠馬って女の子苦手なん?意外だわー。見た目はモテそうだし、遊んでそうなのに」

 心外だな。

 …いや良く言われるけどさ………。

 中身はまったくもって正反対だぞ。

「ふーん、面白いねぇ」


 まじまじと俺の方を見ながら顔を近づけてくる碓氷さん。

 やめてくれ。

 っていうかヤバイよこの人。誰かー、助けてー。


「あ、そういえば何も出してなかったね」


 飲み物持ってくるよー、とキッチンの方に向かう碓氷さん。キッチンと言っても、ワンルームのアパートなので、すぐそこだが。


「はい」


 そう言って俺の目の前に水の入ったコップを差し出した。

 おかまいなく。

 俺はそれを受け取り、一口……

 ぅ!!ちょ、おまっ!!


「あっはっは!おもしろー!!」


 水だと思って飲んだものは、芋焼酎だったようで(しかもストレート)、よく見ると碓氷さんの頬は少し紅潮していた。すでに飲んだというわけか。

 …ぅ、喉がやける………。

 どうやら、とんでもない人に捕まってしまったようだ。

 碓氷さんはすぐに酔うわりに、お酒好きなようだ。

 酒癖が悪いなんて、もはやどうしたらいい?

 俺は女性が苦手なんだ。

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