side日和
先輩は女性が苦手だ。
いつもそう呟いている。
「じゃ、食堂行ってくるわ」
私も行きます!
って言いたいけど、もうお弁当を開けちゃった。今から行くってゆーのは、さすがに不自然だよね…。
先輩はそのまま部室を出ていく。
あーあ………。
さっきも失敗しちゃったし。
やっぱり自分で作ってるって言った方が良かったかなぁ。
いやでも嘘つくのは良くないし。
ってか食堂って、花音と亜美に遭遇したりしないよね!?
あー、心配だよぉ。
もし会って仲良く………って先輩に限ってそれはないか。
………そこで安心するのもどうなのよぉ。
もー、先輩のバカ。朴念仁。
ってゆーか、いつまで先輩って呼んでんのよわたしー。恥ずかしくて先輩の名前も言えないなんて………。
く、国ヶ谷、さん………。
ああん!無理ぃ!!
でも今さら名字ってのもどーなんだろ…。
……………悠馬さん。
ああああああああああ!!!
無理無理無理無理無理!!!
恥ずかしいっ!!!
って、一人で何やってんのよぉ。
もういい、ご飯食べよ。
……………。
ゆ、悠馬……
「日和ちゃん?」
ふにゃあああああああああああ!?!?
ちょっ、まっ!?!?
辰義さん、朋弥さん………
部室の入り口を見たら、辰義さんと朋弥さんがいた。ばつが悪そうな顔をしてこっちを見てる。
………聞いてました?
「んー、聞くつもりはなかったんだけど、ドア開けたら、ね」
死にたい。
よりにもよって、最悪のタイミングで人に聞かれた。
那智日和、没。享年19歳。………もう少し人生を謳歌したかったよぉ。
「まぁまぁ、日和殿、そう落ち込まないでくだされ。拙者たち、もとより知っていたのでござる」
……………え?
「おい朋弥、見守ろうって話だろ?」
「でももう見ちゃったでござる」
「んー、まぁなぁ。たぶん気づいてないの悠馬ぐらいだしなぁ」
えーっと、どーゆーこと??
「俺と朋弥は、日和ちゃんのこと、最初から気づいてたよ。あえて何も言わなかったけどさ」
え、さらに死にたくなったんですけど。
「あれで気づかない悠馬殿もどうかと」
「気づいてないフリかもしれないけど、日和ちゃんも相変わらず、名前すら呼べてないからな」
辰義さん、言わないでください。自分で自分が恥ずかしくなります。
「でも悠馬殿も、日和殿と最初に会ったときとは変わってるでござるし」
「あの時はあいつも元気だったしな」
最初って、先輩、私が入学した時からあんな感じでしたよ?
「でも、去年の学祭で会ってるだろ?」
………知ってたんですか?
「俺たちはな。悠馬はどうか知らんけど」
「日和殿も髪を染めてるでござるし」
もー、穴があったら入りたい。
でもでも、それじゃあ先輩に何があったんですか!?
「うーん、それは…」
「悠馬殿本人に聞いた方がいいでござる」
教えてくださいよぉ。
「勝手に話すのもどうかと思うでござる」
「俺たちも、引きずりすぎだとは言ってるんだけどな」
うー、もやもやする。
先輩に直接聞けって言われても、そもそも先輩とは緊張してうまく喋れないのに…。
それに私が聞いても話してくれるのかなぁ。
先輩は女性が苦手なのに。
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