なんでいるんでせう?

 俺は女性が苦手だ。

 前にも言ったが嫌いではない。苦手なだけだ。





「なんでいるんですか?」


 それはこっちのセリフだ。

 とある平日の、お昼前。部室にいた俺の目の前に那智さんが現れた。


「サボりですか?」

 休講になったんだよ。

 だから時間をもて余して、こんな時間に部室に来てるんだ。

「朋弥さんと辰義さんは?」

 あの二人は授業だ。

「一緒じゃないんですか?」

 そもそも学部が違う。

「そ、そうでしたっけ?」


 どーせ、興味ないだろ。

 那智さんもいつもの自分の席に着く。

 俺と那智さんがいつも座っている席は、丁度対角線にあり、向かい合ったり、隣り合ったりすることは基本ない。いつもは、隣が朋弥で、向かいが辰義だ。

 俺はいつも、一人で漫画を読んでるが、那智さんはだいたい朋弥か辰義と絡んでるので、今は手持ちぶさたなのか、チラチラと俺の方を見てはそわそわしている。トイレなら出て右だ。


「あ、先輩、これ面白かったですよ。貸してあげます」

 おう、そうか。ありがとう。


 この前買ったやつか。なんか貸してあげます宣言してたが、ほんとに貸してくれるとはな。

 しかし、このまま会話が広がるわけでもなく、沈黙が続いている。

 うわーきまずい。

 この時間なら一人になれると思って部室にきたのに、那智さんがくるのは予想外だったなぁ。

 女性と二人の空間というのは、いつになっても慣れん。

 どのくらいの時間が経っただろうか。

 気まずさがピークに達して漫画の内容が一向に入ってこない。

 よし。

 俺は席を立った。


「どこいくんですか?」

 ちょっと飲み物を買いにな。


 それもゆーっくりと。時間を稼ぐかのようにな。


「私も行きます!」


 うぉい、びっくりしたぁ。急に大きな声だすなよ。


 じゃ、じゃあ、ついでに買ってこようか?

「大丈夫です!私も行きます!」


 なんでそんな行きたがるんだよ。ゆっくりしとけばいいじゃないか。

 というか着いて来られると、結局気まずいままなんだが。


「ほら、行きましょう!」


 ついに先導し出したぞ。

 勘弁してくれ。

 おじさん二人が気まずくて、外に出るきっかけを作っただけなのに。

 俺は女性が苦手なんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る