時すでに遅し

 俺は女性が苦手だ。

 何度だって言ってやる。苦手だ。





「うーん!美味しい~。タピオカって、もう響きからして可愛いですよね?」

 ヒビキ?鍛えてますからってか?

「…はい?」

 なんでもない。わからないならいい。平成の6代目だ。

「いやーしかし、タピオカはいつ飲んでも美味しいでござるなぁ。5杯はいけるでござる」

 だからそんな体型なんだろ。

「悠馬殿、それとこれとは関係ござらん。拙者の体型は揚げ物の食べ過ぎでござる」


 把握してるなら何より。自覚アリはタチが悪いがな。

 アニメショップの帰りにお茶をしようとなった俺たち漫研は、流行りのタピオカ店に来ていた。


 しっかし、那智さんはともかく、男の朋弥までタピオカってのは。なぁ、辰義。

「甘党なんだよ俺」

 裏切り者。

 もういい。帰る。

「まーまー、そう邪険にすんなって。一回食べて見ろよ。旨いぜ?」

 結構。そんなのカロリーが高いだけのデンプンの塊じゃねぇか。

「あ、先輩。言ってはいけないことを言ってしまいましたね。今先輩は、世界中の女子を敵に回しましたよ」

 大袈裟な。タピオカを飲まん女子だっているだろう。

「悠馬殿、いつだって数には勝てないのでござるよ」


 あぁ、そうだな。いつのまにか2つもおかわりをしているお前には勝てる気がしねぇよ。


「いーから、一回飲んでみろって。飲まず嫌いはよくないぜ?」

「そーですよ先輩。その歳にもなって、嫌いなものがあるなんてカッコ悪いですよ」

 ピーマンが嫌いな那智さんには言われたくない。

「そ、れはっ」


 以前、なぜかお弁当の話をした時があり、那智さんはピーマンが嫌いなことが俺たちにバレてしまっていた。あまり気にすることはないと思うが、当人が気にしているのなら、今日ばかりは役に立ったな。ありがとう。ピーマン。


「もー!!絶対美味しいです!飲んでみて下さい!!」


 からかいすぎたか。

 躍起になった那智さんが、俺の目の前にタピオカを差し出す。

 やれやれ。「それ」で良いんだな?

 俺はそのタピオカを受け取り、一口飲む。太めのストローを通ったデンプンの塊が、甘い紅茶と共に口の中に流れてくる。


 うん、紅茶とデンプンだ。

 それ以上もそれ以下の感想も無く、俺は那智さんにタピオカを返す。

「先輩って絶対女子に好かれませんよね」


 大きなお世話だ。

 女子からの好感度なんぞ、端から溝に捨てている。

 那智さんは文句を垂れながら、俺が返したタピオカを飲む。

 しかし、案外フツーなんだな。いや、まだ「気付いて」ないだけか。

 そんな那智さんを、男二人がニヤニヤしながら見つめている。

 気持ち悪いことこの上ない。


「?なんですか?」

「いや?それ良かったのかなーと思って」


 いちいち言わんでいい。気付かん方がいいこともある。


「……………あ」


 ほら、言わんこっちゃない。

 事に気付いた那智さんは、タピオカと俺を交互に見る。

 その顔はみるみるうちに真っ赤に染まっていった。

 うーん、金髪に赤はよく映える。あ、すいません、そういうことじゃないよね。


 つっても、このくらいのことでいちいち気にするな。ほら、おじさんは気にしてないから。

「わ、たしはっ、気にするんですっ!!!」


 デスヨネ。

 さて、やってしまったことに関しては、もう取り返しがつかないのだが、このあとどうすればいいんだろう?

 俺が残りを飲んで、新しいのを買ってあげる?

 バカ言うんじゃない。そんなことしたらおじさん太っちゃうだろ?…言い訳にしても、これはないな。

 やれやれ、誰か正解を教えてくれ。

 俺は女性が苦手なんだ。

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