急に来るな、びっくりするだろ後輩よ

 俺は女性が苦手だ。

 なので、女性と買い物という経験などほとんどない。

 女性の買い物は長いと聞くし、男は荷物持ち、という印象もあるが、まぁ経験することはないだろうなと遠くを見つめたことしかない。





朋弥ともやさんが言ってたのってこれですか?」

「それでござる!可愛いでござろう??」

「可愛い~!」


 アニメオタクの朋弥と那智なちさんが、グッズできゃっきゃしている。


「こっちも熱いぞ!」


 張り合うな辰義たつよし

 声優好きの辰義も、ここぞとばかりにグッズをかき集めて、朋弥と那智さんに布教している。

 あえてもう一度言おう。

 張り合うな辰義。

 自分が好きならそれでいいじゃないか。

 部室でなくとも、俺以外の三人できゃっきゃしている。俺が来ている意味とは?

 まぁでもせっかく来たんだから、散策するか。





 お。

 まさかの新刊と遭遇。

 発売日ぐらい知っとけよ、という声が聞こえる気もするが、色んな漫画を読んでいるので、把握しきれていないのが現状だ。

 そもそも、漫画とは一期一会の出会いだと思っているので、あまり発売日を気にしたことはない。出会った時が発売日だ。

 いやちょっと何言ってるかわからないな。

 あ、これ面白そう。


「先輩それ好きなんですか?」

 ぅおっ。


 だから急に話かけるなって。びっくりするだろ。


 いやまぁ、その、なんか、面白そう、だな、と、思った、んだよ。


 いやいや、いくら女性が苦手と言えど、後輩相手にここまでどもるのもどうかと思うが。相変わらず情けない。


「へー」


 いやだから「へー」って。

 興味ないなら無理して絡んでこなくてもいいのよ那智さん。


「……………」


 那智さんが無言で表紙を見ている。

 表紙には、ちょっとエッチな感じの(断じて18禁ではない。断じて)女の子が描かれている。

 那智さんの顔も心なしか微妙な顔をしている。

 個人的に、漫画は絵で選ぶタイプなので、第一印象で絵が好みだなと目に留まっただけなのだが、そんなに凝視されると、なぜか俺まで恥ずかしい。


「ちょっと買ってきます」


 え。………え?なぜに?

 別におすすめとかではないんだけどな。俺もまだ読んでないし内容も知らんし。

 えーっと、どうしよう。なんか…那智さんが買っちゃったし、俺も買った方がいいかな…。

 単行本を握りしめ、悩む俺に、、、


「読み終わったら先輩に貸しますねっ」

 ぅぉ、ぉう。


秒で買って帰ってくる後輩ちゃん。

 いや近い、近いよ那智さん。こんなおじさんにそんな近づくもんじゃないよ。あ、いい匂いする。ってちがーーーう。

 とりあえず、周りの目も気になるので離れてくれない?とも言えず、那智さんに従うのみ。

 そういう急にぐっと来られることに、おじさん慣れてないのよ。

 俺は女性が苦手なんだ。

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