第二百四十四話 熱い秀才たちな件

「一番、センター、兵藤君」


 愛亭が守備陣に指示を送った。またしても内外野共に超前進守備体制を敷いた。

 

 今日の兵藤は内野ゴロ二つ。得意のセーフティバントを封じられ、かつ相手投手は兵藤が苦手とする左投げである。

 また球速は百三十キロを超え、この球速は兵藤が外野定位置までのフライを打つ確率が極端に減るというデータまで掴まれている。


 兵藤は打席で足を小刻みに動かしながら構えていた。


「ストライク!!!」


 百三十一キロのストレートに、兵藤はバットをぴくりとも動かさなかった。


「ストライクツー!!!」

 

 次の百二十八キロストレートも続けて見逃した。


「こりゃ今更ながら、フォアボールは期待できねーな」

 兵藤はフフッと微笑んだ。


「おい今のは甘かっただろ!! とりあえずブン回せよ!」

 ベンチから東雲が味方の兵藤にヤジを飛ばす。


「オメーみたいなバッティングセンスがありゃ苦労しねーっつの」

 ホームベースをバットで小突きながら、兵藤はボソって呟いた。表情は笑ったままだった。


「ストライク!!! バッターアウッ!!!」


「っしゃあ!!」

 ラストボールはアウトローに決まる、完璧なストレートだった。三球三振を奪ったマウンド上の碧海は思わずガッツポーズを決めた。キャッチャーの愛亭は少し不思議そうに兵藤を見るも、直ぐに切り替えてボールを返球した。


「何してんだよ、せめて振れや!」

 東雲に対してわりーわりーと流す兵藤。


「今じゃねーんだよ。今じゃ」

「はぁ?」

 兵藤は意味深なことを言い、バッティンググローブを外した。



 ――キィィィィ!!!!


 二番の山神が初球のストレートを捉えた。目の覚める一打は右中間を真っ二つに切り裂き、ワンバウンドでフェンスにまで到達した。

 センターの雲空は最短ルートでクッションボールを処理し、素早く中継に送球した。それを受けたカットマンも無駄のない動きで三塁へ投げたが、山神の足が勝った。


「ナイスバッティング!!」


「やるじゃねーかキモヲタ!!」

 明来ベンチは久しぶりのチャンスに盛り上がりをみせた。東雲も一言余計ではあるが声援を送った。


「タイム」

 キャッチャーの愛亭がタイムをかけ、マウンドへ向かった。


「わりぃ、打たれた」

 碧海は少し悔しそうに目を細めた。


「問題ないですよ。山神さんを完封するのは元々難しいって話でしたし、ランナーがいない場面で助かりました」


「次は駄覇か。歩かせる? なんとか抑えてるけどボール合ってるし」

 碧海の問いを聞き、愛亭はチラッとベンチに目をやった。安藤監督は勝負しなさいといいたそうなジェスチャーをした。


「勝負です! 駄覇を歩かせたら、次は四番の東雲さんです。今日は雲空さんがしっかり抑えていますが、本来一番怖い選手です。そして五番には今日当たっている氷室さん。ここは駄覇と勝負です!」


「OK。監督とお前がそう言うなら、俺は従うまで。俺たちで中学MVPの天才を抑えようぜ」


 碧海と愛亭はグータッチをし、愛亭は駆け足でホームベースまで戻った。


「バック、宜しくお願いします!!!」

 愛亭は大きな声を出し、守備陣を鼓舞した。


「秀才君なのに熱血だねぇ。おもしれー」

 駄覇が笑いながら打席に立った。


「ヴォラッ!!」

 碧海は目一杯左腕を振り切った。


 ――ギュゥゥゥゥン!!!


「フッ!!」

 ――ッパキィィィィ!!!!


 駄覇の初球攻撃だった。今日最速百三十五キロを捉えた鋭い打球は、センターを襲った。



「センター!!!!」

 愛亭がマスクを外し、急いで指示を送った。


 ――ダダダダダダ!!!!

 センター雲空は完全にボールから目を切り、フェンスへ全速力で向かっている。


 ――ドンッッ!!!!

 切っていた目線を打球方向に戻し、雲空は背走しながらジャンプした。そして、そのままの勢いでフェンスに激突した。


 その場に倒れた雲空だが、左手のグラブを高々と突き上げた。グラブのウェブ先端には、ボールがギリギリ収まっていた。



「アウトォォォォォ!!!!」


 一瞬の静寂のあと、球場全体から大きな拍手と声援が送られた。


 雲空の超スーパーファインプレイが飛び出し、明来は得点のチャンスを逃した。



 六回表 終了

 明来 ゼロ対ニ 永愛

 

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