第二百四十五話 守備の解れな件
「雲空!!」
「キャプテン、大丈夫ですか!?」
永愛の選手達は駆け足で、センター雲空の元へ駆け寄った。彼はその場で倒れたままだった。
「マジかよ……」
今日一番のビッグプレーにより、またしてもヒットをもぎ取られた駄覇は二塁ベース上で呆然としていた。
――次の瞬間、球場全体から拍手の輪が広がった。
雲空はチームメイトからの補助を断り、自ら起き上がった。そして自軍ベンチに向けて両手で大きくマルを示した。大丈夫、まだ戦えるという意思表示である。
雲空がベンチに戻る時、未だ二塁ベース上で呆然としていた駄覇とすれ違った。
「譲らねぇよ」
雲空はたった一言、駄覇に言い放った。駄覇は何も言い返せなかった。その後東雲のやかましい声で我に帰り、ベンチに引き返した。
「ボーッとしてんじゃねーよ。さっさと切り替えて守備につけ」
東雲は強引にグラブと帽子を駄覇に手渡した。
駄覇はバッティンググラブを外し、グラブを持ってベンチから出ようとした。
「駄覇君、帽子帽子! メット被ったままだよ」
瑞穂が駄覇に声をかける。
「あぁ……サーセン、あざす」
駄覇はヘルメットを脱いだ。瑞穂が手を伸ばしてヘルメットを受け取った。
「切り替えてね。今日、内容はずっと良いんだから」
駄覇はぺこりと頭を下げて帽子を受け取った。
――六回裏の守備。
六番打者はツーストライクに追い込まれてからファウルで粘っている。
――ギィィン!!
「ライト……!!」
フラフラっと上がった打球がライト方向へ上がった。
「おっけー」
駄覇はスタート良く、前方のボールへ向かって走っている。
「オーライオーライ!!!」
ドンッ!!
駄覇は後方のフライを深追いしていた東雲と衝突した。ボールは誰も捕ることはできず、地面に落ちた。守にとってはアンラッキーなポテンヒットとなった。
「痛ってーなクソッ」
「ボールセカン!! 急げ!!」
守が大きな声を出して指示をした。慌てて駄覇は返球をしたが打ってから直ぐに全力疾走していたバッターランナーは悠々二塁へ到達した。
「オイアンタ! 内外野間のフライは外野優先だろうが!」
「はぁ!? テメーが落下地点入るの遅せーから俺が来たんだよ!」
幸いどちらもケガをしたわけではなさそうだが、東雲と駄覇がまたしても喧嘩をしてしまった。青山が何とかその場を沈め、二人は守備へ戻った。
「……」
守の怒りがもう喉元の手前まで来ていたが何とか抑え込んだ。セットポジションから二塁ベースを目で牽制する。
『バカ東雲……サインくらい出せよ』
東雲は地面をガツガツ蹴っているだけで、牽制サインのことはすっかり頭から抜けてしまっていた。
『ここからは下位打線……このランナーは絶対に還さないぞ』
守はギアを上げる為、ふぅっと息を吐き、集中力を上げた。
――この解れを、名将は見逃さなかった。
「スチール!!!」
山神が大きな声で盗塁を伝えたが、どうしようもなかった。守が投球動作を始める直前より僅かに早く、二塁ランナーが駆け出した。
「ぐっ!!!」
キャッチャーの不破も完全に意表を突かれた。急いでボールを握り変えたが、ランナーの到達点を見て三塁送球は諦めた。
永愛ベンチから歓声があがった。守備のネットワークが崩れた場面でノーアウト、ランナー二塁からの初球盗塁。完璧な奇襲だ。
「タ……タイムお願いします」
不破が主審にタイムを要求し、内野陣にもマウンドに集まるよう指示を出した。
六回裏 ノーアウト三塁
明来 ゼロ対ニ 永愛
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