第二百四十三話 兵藤の問いな件
「センター!」
五番打者の愛亭との打席、八球目であった。守は振り返りながら、打球を目で追った。センターの兵藤は落下地点に到達し、難なくフライをキャッチした。
「アウト!!」
スリーアウトを取り四回裏の、明来の守備は終わった。
「ナイスキャッチ、兵藤」
ベンチに戻り、守は兵藤に声をかけた。
「千河、よく立て直したな」
「あぁ。どうもあの四番とは相性が悪い。悔しいね」
悔しいという言葉とは裏腹に、守はとても楽しそうな顔をしている。
「千河、悪い。打たれた後で申し訳ないが、聞いていいか?」
守は、兵藤からの意外な言葉に少し驚きを見せた。
「兵藤から何か聞くなんて珍しいね。どうしたの?」
「あいつ――雲空はどんなバッターなんだ?」
兵藤が守に問いかけた。
「兎に角タイミングを取るのが上手いね。毎回フォームを微妙に変えているけど、絶妙な間合いで足を上げてくる」
守はこれまでの二打席を振り返りながら答えた。クイックで投げたり、逆にゆったりしたフォームでも投げていたが、雲空は毎回ベストタイミングでステップを踏んでいた。
「恐らく……足。雲空は打席に立ちながら常に足を動かしている」
兵藤はなるほどと言いながら、足を動かす真似をしていた。
「ありがとう。不破にも後で聞いてみる。」
兵藤はお礼を伝え、守の元から離れた。ベンチの奥で、ずっとステップのイメージを掴もうとしていた。
――その後、明来の攻撃は五番氷室が今日二本目のヒットで出塁するも、不破以降が繋がらず、無得点に終わった。
五回裏の守りは守が快投をみせ、三者凡退に封じ込めた。早い試合展開で、六回表、明来の攻撃となった。
「ストライク、バッターアウト!!」
九番打者の守が三振に倒れた。守は悔しがりながらベンチに小走りで向かった。その時、すれ違った兵藤はずっとブツブツ何かを呟きながら打席に向かっていた。
六回表 ワンアウトランナー無し
明来 ゼロ対ニ 永愛
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