第二百四十話 俺たちがいる件
「セカン!!」
ツーボールツーストライクから永愛の九番打者はゴロを打ち、守は大きな声を出した。セカンド東雲はしっかり腰を落としてボールを補球し、ファーストへ送球した。
「アウト!!」
一塁塁審の右手が上がった。これでツーアウトだ。
「流石だ東雲、安定してる!」
「うっせ、あんなのイージーだっつの」
言葉とら裏腹に、東雲の口元は緩んでいた。
「一番、ピッチャー、碧海君」
永愛打線は一巡し、再び碧海へ打順が回ってきた。
不破のサインは初球ツーシーム。低めに投げろとのことだ。
守はチラッと碧海を観察した。なるほど、前の打席より立ち位置が後ろ、バットは少し短めに握っていて、守のストレートへの対応であると推測できる。
「強く、強く」
守は呟きながらセットポジションに入った。
「ストライク!!」
守のボールは低めいっぱいに決まった。碧海はぴくりとも動かなかった。
不破は二球目のサインを出した。今度は速いまっすぐのサインだった。コースよりも球威を優先するようにとのことである。
「強く、強く」
守は再び、自分に言い聞かせながらセットポジションに入った。
――スパァァァァン!!!
「ストライク、ツー!!」
コースはインコース。普段の守からしたら比較的甘い高さであったが、これも碧海はバットを振る様子はなかった。
不破は少し間をおいて、三球目のサインを出した。外のボールゾーンへ逃げるスライダーだ。
守はそのサインにすぐ頷いた。不破の意図が理解できた様だった。
「ふっ!!!」
守はしっかり腕を振り切った。ボールの軌道はアウトコースへしっかり決まっている。
――ギンッ!!
碧海はボールを追いかける様なスイングとなり、下っ面を叩いた打球を打ち上げていた。
「サード!!」
守が空を指差し、氷室がフライをしっかりとキャッチした。この回は永愛打線を危なげなく三者凡退に封じ込めた。
「千河」
不破がミットを突き出した。守は自身もグラブを突き出し、グラブタッチした。
「不破、何となくわかったよ」
守が話し始めた。
「何がだ?」
「相手が耐球しているのを読んで早めにカウントを作ったでしょ」
「ほぉ……」
不破は少し驚いた顔をみせた。
「追い込んでからもファウルを稼いでくるから、ストライクからボールになる球でスイングを崩したんだよね」
守の答えを聞いて、不破は白い歯を出した。
「配球の考えが見えてくると、面白いだろ?」
守は首を縦に振った。
「そう思い通りにはさせねーよ。こっちには俺たちがいるんだ。正確無比のコントロールを持つお前と、それを引き出すリードが出来る俺」
守は少し驚いた。不破が自分自身のことを持ち上げることが珍しいからだ。
普段、東雲とかいう自分大好き人間のナルシ発言を聞きまくっているだけに、とても新鮮な気持ちになっていた。
四回表の攻撃は、二番山神から始まった。投手は左の碧海。山神に対して碧海は力一杯のストレート中心に投げ込み、センターフライに打ち取られた。
「――コィィン!!」
三番駄覇は二球目にセーフティバントを決行した。前の打席同様、全体的にセンターからライト方向へのシフトが敷かれていたので、空いた三塁線を狙ったのである。打球の勢いを殺した、上手いバントだ。
「オッケー」
碧海は投球と同時に素早くチャージをかけていた。無駄の無い動作でボールを掴み、そのまま回転しながら一塁へ送球した。
――スパァァァァン!!!
「……アウトォォ!!!」
間一髪のタイミングだが、僅かに碧海の方が速かった。素晴らしいワンプレーに、球場も沸いていた。
「ウソ、マジ?」
駄覇は思わず碧海の方を見た。また害悪な先輩である東雲が色々ほざいているようだが、駄覇の意識は完全に今のプレイに向かっていた。
「ピッチャー、雲空君に代わります」
四番東雲の所で、またピッチャーが雲空へシフトされた。
永愛ベンチメンバーが雲空、碧海それぞれの守備変更先のグラブを彼らに渡した。碧海は外野用グラブをはめ、急いでセンターの守備位置に向かった。
四回表 ツーアウトランナーなし
明来 ゼロ対一 永愛
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