第二百三十六話 惜しい攻撃な件

 二回の表、明来の攻撃。予想通り、永愛は守備シフトを変えてきた。先発碧海と雲空とでセンターの守備を入れ替えた。


「四番、セカンド、東雲君」


「駄覇ァ!! 先輩がお手本見せてやっから、ちゃんとメモ持って見てろよ?」 

 お得意の天狗様になっているクソパイセン東雲を見て、一塁コーチャー駄覇はだるっと呟いた。


「ふーん、ガリ勉君にしちゃあ悪くねー球投げんじゃん」

 雲空の投球練習を見ながら東雲がいらん事を言った。


「東雲さんには十五キロ以上劣っていますけどね」

 愛亭がマスク越しに笑って返した。


「ふぅん、己らの立ち位置理解してんじゃん。まぁ君達はその頭脳で今後の日本経済でも支えてくれたまえ」


「ははは、微力ながら貢献できるように頑張ります。頭を使えば高い壁も乗り越えられると、この試合でも証明したいですが」

 愛亭の言葉に対し面白ぇと東雲は呟き、右打席に入った。


 雲空はセットポジションから、投球動作に移った。


「アァ?」

 東雲が思わず声を出した。無理もない。彼の投じたボールは、まるで始球式のようなスローボールであった。


「っしゃあ貰ったァァァ!!!!」

 東雲は超絶力一杯のスイングを繰り出した。


 ――ギンッ!!


「サード!!」

 東雲の力みに力んだ一振りは、体勢が完全に突っ込み、バットの先っぽで引っ掛ける打球となった。


「アウト!!!」

 

「プフッ!!!!」

 駄覇は吹き出した。


「クソが!! クッソ甘すぎて力んだ!!」


「かー、出た言い訳! 見苦しい見苦しい!」

 東雲に被せて駄覇は煽った。東雲はそんな彼にガンを飛ばした。


「いや、アンタの言葉をそのまま返しただけっしょ。とりまアイツらを舐めない方が良いってわかったっしょ?」

 東雲は黙れクソガキと吐き捨て、ベンチに戻った。


 ――キィィン!!

 初球攻撃だ。氷室の打球は三遊間を抜け、レフト前ヒットとなった。


「よし、チャンス!!」

 守は投球練習をしながら戦況を見守っていた。

 

「ワンナウト、打たせていくぞ」

 雲空は落ち着いた様子でバックに声をかけた。打席には六番の不破がバントの構えで立っている。


 ――ダダダダ!!!

 雲空の投球と同時に氷室が走り出した。不破はバットを引き、スイングのフォームを作った。バスターエンドランである。

 

 ――キィン!!!

 不破の打球はショート定位置のゴロになった。ただショートは氷室が走った為、二塁ベースカバーに入っていたので、やや逆シングルの様な捕球体勢になっていた。


「走れ不破!! ヒットになるぞ!!」

 守はブルペンから大きな声を出した、不破は全力疾走している。


 ショートは何とか足で踏ん張りながら、バウンド送球を行った。


「……アウト!!!!」

 間一髪のタイミングだったが、ショートバウンドを体いっぱいに伸ばして捕球したファーストに軍牌が上がった。


「よし、ナイスショート、ナイスファースト!!」

 雲空はグラブを軽く叩きながら仲間の守備を労った。これでランナーは二塁へ進んだが、ツーアウトとなった。


「七番レフト、風見君」

 風見が右打席に立つと、外野陣は前進守備をとった。ランナーが二塁にいるのと、風見のパワーを考慮してのシフトだろう。


「風見ィィ!! 頭越したれや!!」

 東雲が声をあげている。


 ――キィィィン!!!

 風見がうまくボールに合わせるも、予め前進守備をしていたレフトがランニングキャッチをした。


「惜しいっ!!」

 守がグラブを叩き、マウンドへ駆け出した。



「ナイスピッチです、雲空さん」

 ベンチに戻った雲空に、愛亭がミットを差し出した。雲空はグラブで軽く触れた。


「順調だな。おおかた予想通りだな」

 愛亭は、はいと答えた。


「このまま明来さんには、惜しい、あともう少しを続けてもらおうかね」

 雲空は少しだけ口元を緩め、そして普段通りの冷静な表情へ戻した。


 二回表 終了

 明来 ゼロ対ゼロ 永愛

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る