第二百三十五話 絶好調な件
「ふーっ……」
守はマウンド上で大きく深呼吸をした。先発のマウンドに立つ事は、彼女にとって数え切れない程経験はあるが、この独特の緊張感に慣れる事は今後も無いだろうなと感じていた。
スパイクで足場を作りながら、土の感触を確かめる。うん、程よい硬さで投げやすそうだと彼女は少し安心していた。
「一番、ピッチャー、碧海君」
守は先発ピッチャーで一番打者って大変だなと思っていた。しかしその後、永愛高校は相手の打順、打席によってピッチャーをスイッチするチームだったなと思い出し、それなら一番ピッチャーもできるねと一人で納得していた。
『よし、今日は絶好調だ』
守は、マウンド上で自分の世界に入っていたことに気がついた。こういう空想の世界に包まれる時の守は物凄く調子が良いのである。
不破からサインが出る。初球はアウトロー、ストレートである。
『永愛の野球はデータに基づいた、守備型の野球。打撃では耐球、狙い球の徹底……』
永愛の打撃傾向を見据えて、ストライクの貰いやすい選択に納得した守は、すぐに投球モーションに入った。
「ストライク!!!」
まさにドンピシャというボールであった。不破が構えたミットに吸い込まれるかのように、守のストレートが決まった。
「完……璧っ!!」
守はイメージ通りのボールが投げられた事を実感していた。
「ストライクツー!!」
守はインローいっぱいのストレートを投じ、たった二球で碧海を追い込んだ。
『ここまでは予定通り……ここから耐球作戦で来るはず』
「ふぅ……」
守は息を吐きながら、気持ちを入れた。そして不破のサインを覗き込み、思わずニヤリと笑みを浮かべた。
『審判さん、三次元で見ててよ……。私のボールを!』
守はまたしてもストレートをインローに投げ込んだ。先程のボールよりも、ややバッター寄りに投げられていた。
――スパァァァァン!!
碧海は悠然とボールを見送った。
「……ストライク、バッターアウッ……!!」
主審は一瞬判定が止まったが、ストライクを宣告した。
「えっ!!」
碧海は一瞬、信じられないといいたげな顔をしたが、すぐにベンチに下がっていった。
不破は首を二、三度頷かせてから、守にボールを返球した。
「左奥隅……決まったね」
守はドヤ顔でロジンパックを触った。
『私のスタミナを削る為に、極力ボールを見ていく作戦なのかもしれないけど――』
守はストライク先攻でガンガン攻め込んでいる。永愛打線は狙い球を絞っているはずであるが、守の絶妙にコントロールされたボールに翻弄されている。
『そんな緩い攻撃していたら、パーフェクトやっちゃうよ』
三番打者に詰まった打球を打たせた。山神が危なげなく処理をする。
「アウト!!」
守も相手打線を三者凡退で切ってみせた。
一回裏 終了
明来 ゼロ対ゼロ 永愛
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