第二百三十四話 永愛シフトな件

「三番、ライト、駄覇君」

 駄覇が打席に入ると同時に、永愛の守備体型が大幅に変更された。

 サードがショート定位置、そしてショートの選手がセカンドベース寄りに守っている。

 合わせてセカンドは一二塁間に配置されている。つまり現在、サードベース付近はガラ空きとなっているのである。


「あのー、俺がセフティ苦手とでも?」

 駄覇は鼻で笑っていた。


「いいや、貴方にバッティングの引き出しが多い事は、嫌ってほど理解していますよ。ただ、貴方には正統法を外して勝負した方がいいと考えています。」

 愛亭は、先日のミーティングで安藤監督から貰ったアドバイスをもとに動いていた。

 正統法以外、ということを考えに考えた結果、このシフトに至ったのである。


「ま、確かにアンタらのレベルで俺を本気で抑えるとしたら、コレが一番効率的かねー」

 駄覇はいつもの様に、バットをピッチャー側へ立てるルーティンをした。前へまっすぐ伸ばした右腕で、バットを立てる様に持ち、右の袖を左手でサッと引いた。


 ――シュゴオオオオ!!!


 碧海の初球はインコースへのストレートだ。


「フンッ!!」

 ――キィィィィン!!!

 駄覇は、まるでそれが分かっていたかの様な、狙いすましたスイングであった。非常に強烈な打球が碧海の足元左を抜けていく。


 ――バシィィ!!

 しかし、予めセカンドベース寄りに守っていたショートが横っ飛びし、何とかゴロに追いついた。ショートは何とか体制を整えて、ファーストへ送球した。


「アウト!!!」

 ショートバウンドになった送球をファーストが上手く処理をした。

 強烈な打球に対応したショート、そしてファーストのファインプレーである。


「良いね、やるじゃん」

 ベンチに戻ってきた駄覇は、少し嬉しそうにヘルメットを脱いだ。


「フハハハ、何上から目線なんだよ打ち取られておいて」

 東雲は駄覇を指差してゲラゲラと笑っていた。


「アンタ、黙祷でもしてたの? あの人ら、俺ら一人一人に合わせて対策してんじゃん。アンタも油断してっと足元掬われるよ?」


「かー、出た言い訳! 見苦しい見苦しい! 俺様がちゃんと次の回、手本見せてやっから。メモ片手に見てろよ一年坊主」

 ダルっと駄覇は呟いてから、外野用グラブを持って守備へ向かった。


 そんな中、守は大きく息を吐いてから、よしと声を出してマウンドへ駆け出した。


 一回表 終了

 明来 ゼロ対ゼロ 愛亭

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