第二百三十二話 頻度解析な件

「ジャンケン、ポン」


 主審立会のもと、両チームキャプテンによる先攻後攻を決めるジャンケンが行われた。永愛の雲空はチョキ、氷室はパーを出した。


「後攻でお願いします」


 雲空が後攻を選んだ事で、明来が先攻に決定した。


「宜しくお願い致します」


 雲空は深くお辞儀をしてその場から立ち去った。


『初手でチョキ……三択とはいえ、この大会初めてかも知れない』


 氷室は少し違和感があるようだが、気のせいだと自分で解釈して、メンバーの元へ戻った。



 ――そして前の試合が終わり、両チームがグラウンドで降り立った。



 バックスクリーンの電光掲示板には両チームのスターティングメンバーが表示されている。


明来高校

一番センター 兵藤

二番ショート 山神

三番ライト 駄覇

四番セカンド 東雲

五番サード 氷室

六番キャッチャー 不破

七番レフト 風見

八番ファースト 青山

九番ピッチャー 千河


 前の試合と打順はほぼ変わりなかった。

 前の試合投げなかった守が、九番の松本だった所に入った。そして松本が抜けた事で外野が一部入れ替わり、ライトには駄覇、レフトに風見をシフトした。


「相手のスタメンはほぼ予想通りですね。ピッチャーは左の碧海君。恐らく四番でキャプテンの雲空君と、打順によってピッチャーはシフトして来るはずです」


 上杉監督が改めて選手へ情報共有した。


「恐らく左の多い一回は碧海君、二回以降は基本雲空君で、打順の巡りで碧海君と守備交代っていう流れかと思います」


「ふぅん……。俺を左ピッチャーってだけで抑えられるって、甘い考えしてんだ。頭良いはずなのに」


「目が笑ってねーんだよ。そんな自信あるなら俺のお膳立てしろよな?」


 駄覇か笑いながら、打席に向かう準備をしていた。そんな彼に対して東雲は煽った。


 そんな中、兵藤は無表情で準備を進めていた。



 ――「一同、礼!!!」


 「しゃあす!!!!」


 そして両軍一礼が終わり、永愛の選手は駆け足で守備位置へ向かっていった。



 ――「ボールバック!!!」


「一回、締まって行こう!!」


 最後の投球練習が終わり、永愛のキャッチャー愛亭あいていが掛け声を出していた。


「一回の表、明来高校の攻撃。一番センター兵藤君」


 兵藤が打席に向かった。そして彼は、やはりな、という様な表示を浮かべた。

 

 ファーストサードはバントシフトの様な前進守備。外野は芝生ギリギリの位置という、蛭逗戦の様な極端な守備体型を取っていた。

 外野定位置以上のフライは捨て、ゴロとセーフティ対策にに特化したシフトである。


「俺も舐められたモンだな。外野フライでヒットくれるってか」


「不快にさせていたら申し訳ありませんが、決して舐めていません。むしろ最大限貴方の足を警戒した結果です」


 兵藤に対し、愛亭が返した。


「俺だってパワーがないだけで、別に左だろうと外野フライは打てるんだけどな」


「ただ、ある基準値以上の最大球速を持つ左ピッチャーになると、?」


 愛亭の言葉に、兵藤は何も返さなかった。


「対して内野への打球が極端に多くなり、外野手が捕球する様な打球は、ほぼ内野の間を抜ける強いゴロですよね。頻度的に、内野安打を殺すことが利益的と判断したまでです」


「……大したモンだな。解析ツールでも使ってんのかよ」


「当然です。球速や球種だけで無くランナーの状況、天候、カウント別、打席数別……調べるべき仮説はいくらでも建てられます」


「お前、野球よりポーカーのが向いてるって」


 兵藤は笑いながら打席に立った。


「ただ、まぁ、数字だけが必ず結果に結びつかないのが楽しいよな。野球もポーカーも」



「プレイ!!!」


 主審の声と同時にサイレンが鳴り響いた。



 明来対永愛 プレイボール

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