第二百十九話 違和感の答えの件
「俺が感じた違和感の正体、それは……」
東雲はまるで探偵もののキャラクターの様に、結論を語ることを勿体ぶっていた。
「余り長くタイムが取れない。早くしてくれ」
不破が間髪入れずに突っ込んだ。
「はいはい。で、正体はお前の間合いだよ、不破」
「……間合い?」
不破が東雲に問いかける。
「お前、変化球を要求する時少しだけ間を空けてからサインを出すだろ。多分アレだな」
「あっ!!!」
不破はその言葉を聞き、余程身に覚えがあるのか、明らかに動揺していた。
「落ち着けや。アイツらに、特に麻布なんかに今の状況バレたらどーするつもりだよ」
東雲の言葉を聞き、不破は一瞬間をあけるように深呼吸をした。
「ま、間違いない。俺は変化球を要求する前に打者の様子を見ている。ストレートの時はテンポを維持させる為にもササッとサインを出していたと思う」
「そう。奴らは俺らのサインを解読した訳でも、俺のフォームを分析しきった訳でもない。お前だけを見ていたんだ。だから次の球は……」
東雲は得意げな表情で、自らの口から球種を指定した。
その後、不破はポジションに戻った。そして彼はすぐさまサインを出した。赤坂の口元が一瞬ニヤっとしたことを不破は見逃さなかった。
「オラァ!!!」
東雲は右腕を思いっきり振った。
――ブンッ!!!
「ストライク、バッターアウト!!!」
赤坂はストレート狙いでバットを振り始めたが、ボールが到達するよりもかなり先にバットが出てしまった。東雲得意のチェンジアップが炸裂した。
赤坂はもちろん、ベンチにいた麻布も信じられないといった様子で目を見開いていた。
「テ……テメェら……ハメやがったな」
赤坂は怒りを露わにしていた。
「は? 何のことだよ」
東雲はニヤニヤしながら答えた。
「それとも何か? 俺がストレートを投げるって根拠でもあったのかよ? おいおい、それってまさか俺たちのサインを……」
「おい赤坂、そんな奴無視して戻ってこい!!」
麻布が慌てて赤坂の右腕を引っ張り、ベンチに引き下げた。
「ハン、前座がイキんなっつーの」
東雲はロジンパックを触り、顔を引き締めた。
「四番、セカンド、豊洲君」
「さぁ、今度こそリベンジしてやるぜ」
東雲は大きく息を吐いた。
六回裏 ツーアウトランナーなし
明来 三対二 蛭逗
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