第二百十八話 違和感が確信に変わった件

 六回表、明来の攻撃はその後赤坂の前に沈黙した。


 六回裏、蛭逗の攻撃は二番打者からであったが、東雲はストレート三つで三振を奪った。とてもテンポの良い投球であった。


「三番、ピッチャー、赤坂君」


 先ほどヒットを放った赤坂が左打席に入った。


 東雲はサインをじっと見つめた。といっても彼の頭は初球ストレートと決まっていた。

 不破も同じ考えだったようで、テンポ良くストレートのサインが送られた。


『そうだよ、わかってんじゃねーか』


 東雲は満足そうに投球フォームに入った。


「ウオラァァ!!!」


 

 ――ギュイイイイ!!!!



 ――ズバァァァァァァ!!!!



「ストライク!!!」


 東雲のストレートは真ん中やや低めに決まった。赤坂のバットは空を切っていた。


「ヘッ」


 東雲は不破からの返球を前のめりに受け取った。


『次もストレートだな』


 東雲はそんな事を考えながらロジンパックを手に取った。


 しかし、そんな彼の思惑は外れた。不破は赤坂の様子をじっくり観察してからチェンジアップのサインを出した。


『チッ……まぁ無視すっけどな』


 東雲は左足を大きく上げ、着地と同時に目一杯右腕を振り抜いた。



 ――バチィィィ……!!


「ストライク!!!」


 赤坂は明らかに立ち遅れていた。


 不破が何とかボールを捕球した。不破はチェンジアップを要求した上でストレートを投げ込まれるのだ。満足なキャッチングを行う事は難しい。


『さ、追い込んだからどうすっかな。一発チェンジアップを挟むか、いやストレートだな』


 東雲はそんな事を考えながらサインを覗き込んだ。不破は注意深く赤坂を観察していた。


『チッ……こりゃあ変化球のサインが出されそうな気ィすんな』


 東雲の予想通り、不破からはチェンジアップのサインが出された。


『……あん?』


 東雲はとてつもない違和感を覚えた。


『待て……俺は何で今、変化球のサインが出るって思ったんだ?』


「……あぁっ!!!!」


 東雲は突然大きな声を上げた。


「不破ァ、ちょいこっち来いよ」


 東雲は不破をマウンドへ呼び寄せた。


「タ……タイムお願いします!」


 不破は審判に一言伝え、駆け足でマウンドへ向かった。


「どうした東雲、配球が気に入らないのか?」


「ちげぇーよ。いいか、これは俺様、超絶大発見だぜ」


 東雲は早く語りたくて仕方ないような様子だ。


「……もしかして、配球読みについて何か分かったのか?」


「あぁ、完璧にな。たった今、全ての違和感が確信に変わったぜ」



 六回裏 ワンナウトランナーなし


 明来 三対二 蛭逗

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