第二百十六話 スローカーブ狙いを察した件
「タイム!!!」
麻布がタイムを要求し、すぐさまマウンドへ向かった。
「おい見たか麻布、駄覇の野郎を打ち取ったぜ」
先程までと異なり、ハイになっている赤坂がそこにはいた。今までずっと秘めていた感情が爆発しているのかもしれない。
「あぁ、特等席で見せてもらったわ。で、そのツケで食らった右足はどうなんだよ」
「問題ねぇよ。ゴロだったし骨に直じゃねぇから。少し痛てぇだけだ」
赤坂の言葉を聞き、麻布は頷いた。
「次は凌牙だ。凌牙と五番の氷室を抑えれば後はカスだからな、気合い入れろよ」
麻布はそう言い残し、すぐにマウンドから離れた。赤坂の気分が上がっている内に投げさせてやろうと思っての行動である。
「よう、打ち損じたのかよ」
打席に向かう東雲は、ベンチに戻ってきた駄覇に声をかけた。
「あぁ、東雲サン。アンタも球種とコース絞りな。さっきまでのピッチャーじゃねぇすよ、アレ」
駄覇は良い勝負が出来たからか、楽しそうに答えていた。
「ハン、余計なお世話だっつの。俺に任せておけよ」
「サイン無視のニタコが何言ってんの。とりあえずスライダーかなりキレるから」
「ハイハイ、ご忠告心に刻むぜ一年坊」
東雲はそう言い残し、打席に向かった。
「よう、情緒不安定キッズの子守りお疲れさん」
東雲はいつもの様子で麻布に煽りを入れた。
「凌牙、無駄口叩いてねぇで、さっさと打席に立てよ」
「つれねぇな。ま、いいか」
東雲はバットを構え、ボールを待った。
――シュゴォォォォォォォ!!!
――スパァァァァン!!!
「ストライク!!!」
初球ストレートがアウトローいっぱいに決まった。東雲はピクリとも反応しなかった。
「っしゃ。完璧」
麻布は手応えを感じているかの様にミットを捕球した所でピタリと止めていた。
「ンだよ大人しいな凌牙ァ!」
赤坂は前のめりになり、闘志を全面に出しながら返球を受け取った。
そして二球目、同じくアウトローいっぱいのストレートも東雲はサクッと見逃した。
「んだよ手が出ねェのか?」
赤坂が気持ちよさそうに煽る反面、麻布は違和感を覚えていた。
『初球からアグレッシブな凌牙が二球も見逃した? シニアの時でも一度も見た事ねぇぞ。何か変だ』
麻布は東雲の観察をおこなった。別に普段と変わらない立ち位置、フォームであった。
『珍しく狙い球を絞っているのか? だとしたらアイツは何を待っている?』
麻布の頭の中に、一つの仮説が浮かんだ。
『スローカーブ』
『一打席目に三振したボール。もしかしたらアイツはスローカーブを狙っているのかもしれない。いや、アイツの性格なら十分可能性がある』
麻布は次のサインを即座に決めた
『外から内に入ってくるスライダーだ。三球連続アウトローのストレートと思わせてカットしに行ったところでクイっと曲げてやれ』
麻布は先ほどまでの二球同様、外一杯にミットをどんと構えた。
六回表 ワンナウトランナーなし
明来 二対二 蛭逗
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