第二百九話 違和感のある攻撃な件
蛭逗高校、三回裏の攻撃は七番打者からの攻撃であったが、東雲はサクッと三者凡退に抑えた。三振二つに内野フライと、付け入る隙を与えないピッチングであった。
そして四回表、明来は五番氷室からの攻撃。
先頭打者の氷室がフルカウントから三遊間を破るレフト前ヒットで出塁したが、一段階ギアの上がった赤坂の前に後続は倒れた。
そして蛭逗、四回裏の攻撃は一番麻布からの好打順から始まる。
「一番、キャッチャー、麻布君」
麻布は左打席に入り、またしてもインコースに被るくらい、内側の線ギリギリに立った。
不破はサインを送った。やはりインコースへのストレートを指示した。
「オラァァァ!!!!」
――キィィィィィン!!!
麻布の鋭い打球が一塁線を襲った。
「フ……ファウル!!!」
打球は僅かにフェアグラウンドから逸れた。球場からため息が漏れた。
今のファウルを見て、不破は一つ確信を持った。
『今のスイング、明らかに身体の開きが早い。今のは完全に東雲の投げミス、ど真ん中だ。インコース対策で開きが早かった分助かったぜ』
不破は少しだけ間を空けてから、二球目のサインを送った。インコースへ曲がるスライダーのサインだ。
『過去のデータから、今みたいな打球を打ってから外のボールを流し打ちする場面を何度も見た。開きが早いなら内のスライダーを捉えるのは困難だろ』
「ふっ……」
東雲が二球目を投じた。高さもコースも悪くない。
『よし!!』
不破は自信を持ってミットを構えていた。
――しかし
――キィィィィィン!!!!
「なっ!?」
不破は驚きながらマスクを外し、打球を目で追った。打球は低いライナーでライト前に着弾した。
「チッ……」
東雲は舌打ちをしながら打球を見つめ、そして審判から新しいボールを受け取った。
東雲はその後、二度牽制球を投げた。一球目はプレートを外してゆっくり目の牽制。二球目は素早いターンをして強めのボールを投げた。所謂刺しに行く牽制だ。だが麻布は二球目の牽制に対しても悠々足で帰塁していた。
『頭から戻っていない、という事は盗塁はしないのか?』
不破は少し考えてから、スライダーのサインを出した。
『バントだとすれば、ストレートよりも低めのスライダーの方がミスをする可能性が高い』
不破は少し腰を浮かせ、バントされた後の処理をスムーズにするための準備体制を取った。
「走った!!!」
東雲の投球動作に合わせて、ファースト青山から声がかかった。麻布がスタートを切った。
二番打者はバントの構え、だが打席一番後ろに立ち、後ろに流すようにバットを引いた。
「チィ……!!!」
不破はボールを捕球して、二塁に投げた。しかし麻布の足の方が少し速かった。
――そして。
――コィィン……
「サ……ファースト!」
バント処理をした東雲に、不破は送球指示を送った。
打球は東雲の正面であったが、麻布のスタートが余りに良く、サードで刺せないと判断した。
『この回、何か変だ』
不破は、蛭逗の攻撃に違和感があった。そしてこのピンチをどう乗り越えるかを考えている。
「三番、ピッチャー、赤坂君」
東雲と不破は、このゲームで最初のピンチを迎えていた。
四回裏 途中 ワンナウト三塁
明来 二対ゼロ 蛭逗
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます