第二百三話 認め合う二遊間な件
駄覇のスーパープレイに、観客席の高校野球ファンは大層盛り上がりを見せていた。
「見たか……今のプレイ。二塁ランナーをサードで刺したぞ」
「あれが全中シニアMVPの駄覇か……左投げにも関わらず全ポジション守れるって噂は本当みたいだな」
観客のほとんどが駄覇を凝視していた。
「ケッ……あんまりいい気になるなよ」
東雲が本心とは裏腹に、駄覇にマウントを取っていた。
「別に練習通りっすよ。何のために毎日ノック受けてると思ってるんすか」
「いっちいち生意気なんだよオメーはよ」
東雲は舌打ちをしながらも、普段の駄覇を思い出していた。
確かに彼はノックでも一人様々なバリエーションを想定して受けていた。口だけではない、日頃の意識がこのプレイを生んだと言っても過言ではないことは東雲も認めざるを得なかった。
「チッ……次はゲッツーもあるからな。精々準備しておけよ」
「当たり前すよ」
駄覇は足場を丁寧に整地しながら答えた。
――そして東雲の予言は的中した。
「行ったぞ駄覇ァ!!」
東雲は駄覇の方を振り向きながら叫んだ。六番打者の打球はセカンドベース寄りのゴロだった。
駄覇は流れるような身のこなしで打球にアプローチをかけ、捕球して直ぐにグラブトスを行った。セカンドベースに入る山神の胸元の高さにくる、まさに理想的な送球だ。
「オラァァァ!!!」
蛭逗の一塁ランナーはスライディングをした。しかしその足はベースより少し高く、山神に歯を向けていた。しかも正面よりやや内側――避ける方向に、である。非常に危険なプレイだ。
「ッチィ……」
駄覇は歯を食いしばりながら、その光景を見つめていた。
「避けろや山神ィ!!」
一塁のベースカバーに向かいながら東雲が再び叫んだ。
――しかし、二人の心配は無用だった。
山神はその場で大きくジャンプをし、ほぼリストの力だけで一塁に送球した。
不利な体勢にも関わらず、送球は青山の構えているミットに寸分の狂いなく吸い込まれていった。
そして山神は、スライディングをしてきた選手の顔面を左右に挟むような位置で、両足を着地させた。
「……ア……アウトォォォォ!!!」
見事なゲッツー完成により、明来守備陣はこの回も三者凡退に抑えた。
「て……テメェ……」
一塁ランナーは山神に怒りの表情を浮かべていた。
「スライディングはベースに向かって滑らないと、足が間に合わないでござるよ?」
山神はニコッと笑って返していた。
「……やるじゃないっすか」
駄覇は目線を外しながら山神に声をかけた。
「駄覇殿も、いいグラブトスであった。心配無用であったな」
「ん? 俺が胸元に投げられないとでも思ったんすか?」
「否、駄覇殿の実力を低く見積もったわけではないのだが、何せ初の公式戦が故、つい。失礼した」
山神が両手を合わせた。
「ま、俺も一年坊だし不安になる気もわかるっすけどね。とりまセカンドベース左からは任せていいっすよ」
「承知した」
山神と駄覇はグラブを合わせた。
二回裏 終了
明来 一対ゼロ 蛭逗
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